10話 不思議な力

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「・・・・ッ・・・。」  少し胸に違和感を感じて、蒼空は胸元に手を当てた。  ずっと彩華に伝えたかった・・・・言葉。魔法の時間はこのための・・・小さな奇跡の時間――――。 「・・・・僕っ、君に出会えて本当に良かった。あの時会わなかったら・・・今の僕はっ、ないからっ。」 「そんな事言うなんて、急にどうしたの?」  そう言ってクスクスと笑っている彩華を、蒼空は抱きしめた。 「・・・・彩華っ、愛してるよ。」 「うん。私も愛してるよ、蒼空。」     *   *   * 僕の中で――――何かが途切れた。  視界がグラついて、僕は倒れそうになった。それを何とかこらえて、僕は胸をギュッとつかんだ。 「・・・・ツっ・・・。」  小さな痛みが胸を支配していて、それが少しずつ強くなっていく。 「蒼空っ!?どうしたの!?」 「・・・・ご、めん。もう・・・時間切れ、みた――――ツっ!?」  激痛が襲ってきて、僕はその場に座り込んだ。  異変に気づいた彩華は、優しく僕の背中をさすってくれた。 「病室に戻ろう、蒼空。動ける?」 「・・・・ハアッ、ハアッ・・・。そっ、そうす・・・・るっ。――――ツ・・・うッ!」  立ち上がろうとしたけど、また激痛が襲ってきた。僕は痛みに耐えきれず、その場に倒れ込んでギュッと胸をつかんだ。 ――――イタイヨ・・・。 「蒼空っ、しっかりしてっ!」  彩華が僕を抱きしめ、泣きそうな顔で必死に叫んでいる。 ――――クルシイヨ・・・。 「・・・・ハアッ、ハアッ・・・っ・・。」  言葉を口にしようとするが、激痛のせいで声にならなかった。 ――――タスケテ・・・。  彩華が必死に何かを叫んでいるのはわかっていたけど、“何か”までは聞こえていなかった。  僕の耳に聞こえていたのは・・・・自分の心臓の、鼓動の音だけだった。 そして――――。 僕の意識は・・・・そこで途切れた――――。     *   *   *  処置室の外で待っていた彩華は、中から出てきた藤岡に声をかけた。 「先生っ、蒼空はっ!?」 「今のところは何とか大丈夫だ。だが、状態はかなり悪いな。」 「かなり悪いって、先生・・・・この間と話が違うじゃないですかっ!」  彩華は藤岡の服をつかみ、必死に訴えた。 「私だってあの時はそう思ったさ。だが・・・・今の状態にしておくのは危険だ。」
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