最終話 感謝のキモチ、僕の幸せ

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「藤岡先生、ありがとうございました。」  病院の正面玄関前のホールで、彩華は深々と頭を下げた。傍にいた勇太と彩奈も、同じように頭を下げる。  だが、そこに蒼空の姿は――――なかった。 「いやいや。私は医者として当然の事をしたまでだ。」 「先生のおかげで、蒼空は今まで生きてこれたんだと思います。本当に、ありがとうございました。」  彩華が再び、頭を下げた。 「ちょっと彩華。それじゃあ、僕が死んだみたいじゃないか。」  そう声が聞こえて後ろを振り返ると・・・・そこには、彼がいた。 「蒼空、随分遅かったね。何かあったの?」 「薬局が混んでてさ、薬がなかなか貰えなかったんだ。」  蒼空は手に薬袋を抱えて、こちらに歩いてきた。 「薬くらい、私が貰いに行くのに。・・・蒼空ってば、自分で行くからいいって言うんですよ、先生。」 「蒼空、おまえ・・・・ちゃんとわかっててやってるんだろうな?」  それを聞いた藤岡は、眉根を寄せて蒼空を見る。 「・・・・わかってますよ、ちゃんと。」 「ならいいが・・・。くれぐれも無理だけはするなよ?手術して良くなったのは、心臓だけなんだからな。」 「それくらいわかってますって。小さい頃からずっと付き合ってきたモノですから。」  ふと外を見た蒼空は、司がこちらに歩いてくるのを見て、近くの椅子に置いていた荷物を手にした。 「あ・・・。迎えがきたみたいなんで、僕達はこれで。」 「あぁ、元気でな。次の診察日まで・・・お別れだな。」 「藤岡先生・・・ありがとうございました。」 「退院出来て良かったな、蒼空。」 「うん。これでやっと・・・いつもの生活に戻れるよ。」  病院の外に出たのは、本当に久しぶりだった。季節はまだ冬で、吐く息は白くなるほど寒かった。でも蒼空にとっては、外に出れた実感が得られたようで嬉しかった。  蒼空は思い切り深呼吸をして、体全体にその実感を得ようとした。 「――――。ケホッ、ケホッ、ゴホッ。」  だが・・・冬の冷たい空気は、彼の気管に影響を与えないわけがなかった。 「ちょっと大丈夫、蒼空?」 「・・・・ケホッ、ケホッ。だっ、大丈夫っ。」 「早く暖かい所に行った方がいいね。こんな寒い所にいたら、ダメだよ蒼空。」  そういう話をしているというのに、勇太と彩奈は嬉しくて仕方ないのか、蒼空にくっついてきた。 「パパぁ、抱っこしてぇ。」  彩奈がそう言って、手を伸ばしてきた。
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