最終話 感謝のキモチ、僕の幸せ

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「ずるいぞ、彩奈。僕だってしてもらいたい。・・・お父さんっ、僕もっ!」  勇太も同じように、すっと手を伸ばしてきた。  そんな二人の姿は、蒼空にある事を実感させてくれた。 ―――今までと同じ日常が戻ってきた事。 ―――自分がまだ、ちゃんと・・・・生きているという事を。 「こらっ、二人とも。まだ退院したばかりなんだから、パパに無理言っちゃダメでしょ?」  彩華は彼に甘える子供達を叱った。 「いいよ、彩華。それくらい、大丈夫だから。」  蒼空はそう言って、二人の手を握った。 「さすがに抱っこは無理そうだから、手な。」  勇太と彩奈はそれだけでも嬉しそうだった。蒼空の手をしっかりと握り返す。 「パパの手冷たいっ!僕があっためてあげる!」 「私もあっためる~!」 「ははっ。モテモテだな、蒼空。」  司がからかうように言った。本当は軽く小突いてやりたかったが、今の彼の手は蒼空がさっきまで持っていた荷物でふさがっていた。 「・・・・こんな事がまた出来るのは、みんなのおかげ・・・なんだよね。」  そんな司の言葉に、蒼空はポツリと・・・そう言った。  勇太と彩奈のこの手のぬくもりも、こうして司や彩華と話している事も・・・色んな事すべてがみんなのおかげ。みんながいたから・・・僕は今、ここに生きている。 『彩華・・・・ごめんな。』 蒼空は確かにあの時・・・本当に死を覚悟していた。自分がもう一緒にいてやれないと感じていたから。 「僕はあの時・・・本当に死を覚悟したんだ。あの時の痛みは、今までのとはまったく違ったから。」 「・・・・蒼空。」  彩華はやっと、あの時の言葉の意味を理解した。 「あの先生が『かなり危険な手術だった。』って言ってたしな。」  そう・・・あの緊急手術は、本当に賭けだった。助かる助からないは五分五分だった。藤岡にしてみれば手術はそんな難しい物ではなかった。問題なのは・・・蒼空の体力だった。つまり、手術中体力が持たなければ・・・・死が待っていたから。 「でも、ま・・・・今はこうしてここにいるんだから、それでいいんじゃねぇのか?」 「そうだね。・・・・僕は今、こうしてまだ――――生きてるんだ。」 みんな・・・・僕のために。 ――――ありがとう。                     ・・・・END・・・・
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