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その初めて見たといってもいい、ピーンの大きく驚いた表情に、夫人と執事は顔を見合わせて喜び、揃えて「やった」と思わず声を出す程になります。
『領主様が"ピーン様"だった頃、とてもそのコートを愛用されていたとロックから聴きました。旅を終えてから、ロックがとても草臥れていたのを丁寧に保管しておいてくれたんです。それを私が、繕わせて頂きました』
『繕った生地の部分は、とても国最高峰の仕立て屋のスタイナー家の当主様のように精霊の加護を完璧にコート生地に定着は出来ませんでしたが、私なりに加護をつけさせて頂きました』
カリンに続いてロックが嬉しそうに経緯を報告してくれました。
『そのコートを纏っていたピーン様は、とても幸せそうだったロックに聴きました。私もその旅先から頂いていた手紙は、本当にいつも楽しませていただきました。読んでいるだけで、会ったこともないピーン様とロックと旅をさせて貰っている気分を味わえました』
そんな"暖かい"ばかりの言葉をと共に、大切な人達からの不意打ちのような贈り物に、鼻の奥が熱いような痛いような感覚がみちて、瞳にも熱いものが溜まります。
長い腕に抱えている物も愛しいのですが、それを贈ってくれた人達の事も愛しいものとなりました。
そして出来ることならこの2人を、"自分の手で護りたい"と強く思います。
遠望深慮の賢者らしからぬと自覚しつつ、自分の感情だけを最優先させて、領主の立場や責任感を投げ出して、安らぎを与えてくれる目の前にいる2人だけを護りたい、改めてそう思いました。
『……旦那様、奥様が色々と工夫をなさって、空けてくれた時間がもったいのうございます。どうぞ、お早めに……』
領主の瞳が濡れているのに気がついた執事は、結構照れ屋でもある旦那様の為に、静かに急かします。
『ああ、そうさせて貰おう』
少しだけ鼻を啜り、カリンも夫がそこまで感激してくれている事に気がつきました。
『どうぞ、"自由の時間"を楽しんでくださいませ、ピーン様』
この時の年下で優しい引っ込み思案の伴侶の声は、物凄く頼もしく響き、その声に優しく押し出されるようにして、ピーンは久しぶりに1人きりで、休暇を領地自慢の渓谷が見える場所で過ごします。
ただ用心の為に、いつもしている短剣を装備しもいました。
そしてイーゼルに前にキャンバスを置いて、いざ木炭を握った、その時何かが渓谷の上から降りてくることに気がつきます。
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