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(無意識に過去に強く印象に残った経験が、私の言葉で思い出したという事でしょうか)
"魔術は全くダメだ"とは言ってはいましたが、この賓客にはその才能がないわけではない事も執事に解ります。
(……アングレカムという仲間の方に同じような事を、グロリオーサ様は既に言われていたのですね)
"自分という人がいなくても、信じた相手は大丈夫"
強さを信じて信頼した相手が、"弱さ"を理由を約束を違えてしまったのなら、グロリオーサは「仕方ない」という気持ちと、自分の身勝手という分かっていながらも共に、"裏切られた"という気持ちも、抱いてしまうのかもしれません。
けれども、"グロリオーサ・サンフラワー"と同じような、もしくは匹敵するような強さを"普通に生活をしている人"に求める事も、きっとそれそれで"酷"な事でもあるのだろうと執事は慮る事が出来ます。
『……なあ、ロック君。俺は、そんなに影響力や、カリスマ性なんてあるのか?』
『ええ、それはもう。その事も私は断言できます』
この質問には、執事の青年は即答され、グロリオーサという人は仲間にも同じ様に尋ねたのも容易に想像出来ました。
(グロリオーサ様、あまり物事に執着しない、ピーン・ビネガーが賓客をこうやって領主夫妻で迎えて、しかも私も傍らにおいて相手をするなんて初めての事なんですよ)
嫉妬の気持ちと、グロリオーサを労る気持ちが、不思議と器用にロックの胸の内で同居しています。
自分の敬愛する主が、庇護欲を限りなくそそる伴侶や、欠点を補ってくれる弟のような執事とは、全く違う"対等"な立場のグロリオーサに惹かれているのも判りました。
そしてグロリオーサも、ロブロウ領主ピーン・ビネガーが"自分の求める強さを持っている期待を裏切らない人"だと思っている事も、会話をしていく内に推し量るが出来ます。
執事は自分の主を一瞥すると、"賢者"は先程から変わらない様子で瞳を閉じて"執事と賓客"の会話を楽しんで聞いていることが伺えました。
(きっと旦那様は、私がグロリオーサ様に食ってかかっても、相手にしない……焦げ付きはおろか、火花も散らせはしない事を、最初から見越していらっしゃたのですね)
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