昔話  兵(つわもの)の掘る穴ー真実その4ー

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直ぐに視線は"伴侶・執事・賓客"の3人を眺め、組んでいた脚を組み変えて、その膝の上に手を置き、今度は目元と口許の両方を使って、満面の笑顔をロブロウ領主は浮かべました。 賓客との会話に集中していた執事は、最初カリンが言っている意味がわかりません。 何とか堪えていた好意的な笑いを納めて、口許から手を外して主の夫人を見つめます。 『え?どうしてですか?奥様?』 『あのね、ロック。グロー様の話では、確か"トレニア"さんが……』 いつもの冷静で頼りになる、弟のような執事にカリンが説明を始めようとした時、ロックも夫人の疑問に思い当たることになります。 未だに似合わない考え込む表情をする人物を見つめて、ロックは思わず短く「あ」と小さな声を漏らしました。 (トレニア様は泣いたと、いいや、紫の瞳に涙を溜めて零れる直前に、俺の前から走り出した。走り出して決起軍(レジスタンス)……と言っても仲間4人のテントで、そこから駆け出して、ついでに、馬にまで乗って行ってしまって……) グロリオーサ自身が、という事は口にしていたが、この考え込んでいる鬼神がテントから動いたという話は、一辺たりとも出ていません。 『……あ、奥様そうですよね。どうして"グロー様が迷子"になっているんでしょうか?その……トレニア様という仲間の方は、グロー様がおっしゃるには確りしたお方ですよね?しかし、話を聞いた限りでは迷子になるとしたらのですよね?』 いつものように執事が、自分が謂わんとする気持ちをわかってくれて、領主夫人は胸元に手を重ねて、小さく華奢な顎を動かしながら、喜びの声を出します。 『そうなの、ロック。お話を伺った限りでは、そう言う事になるはずよね?』 『ん!?トレニアがどうかしたか、ロック君に奥方殿?』 トレニアの名前を聞いてそこで漸く、話題の当事者は似合わない考え込む態度を止めて顔を上げ、"迷子の疑問"に目を丸くしている執事と領主夫人にも気がつきました。 『……ククッ』 そこで堪えきれないと言った様子で、膝の上に乗せていた手を目元に移動させて、抑えながらピーンが笑い声を漏らしています。 『何だ、面白い事でもあったかピーン?』 グロリオーサが普通に尋ねました。
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