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そこで一度言葉を切ると、半眼だった目を一気に大きく見開いて領主を見つめていました。
『そもそも脚を組むという所作も、無礼だと思う方もいらっしゃるんです。これは確か前にも、注進したはずですよね?失礼があっては、ビネガー家の沽券に関わるのですよ?』
執事として雇われて、夫人と同じように十数年になる青年は、自分の主が"ロブロウ領主ピーン・ビネガー"の評判が下がる事に繋がる行動を相変わらず軽く取っている事に呆れつつ、怒濤の諌めの発言を続けました。
どうやら優しい領主夫人の"叱責"を真面目に受けようとしない、不真面目な自分の主に、執事は倍返しをしようとしている所もあります。
最近では"正論"の執事の言葉に勝てないビネガー家の当主は、颯爽と降参の意思を表現し、注進された組んでいた脚をほどいて下ろし、両掌を見せて肩の位置まで上げました。
『ロック、カリン、ゴメン、すまん、悪かった』
慣れた様子で、ロブロウ領主は2人の家族と思える人達に謝罪します。
『なんだ、ピーンも日頃の態度を仲間から説教を受ける方みたいだな』
まるで仲間を見つけたみたいにグロリオーサは笑っていましたが、領主の奥方と執事が不思議に思っている事を説明しようと、頑丈そうな口を開きかけましたが、それは白髪の友人からの視線を受けて止めました。
(今少し、待って貰えないだろうか、グロリオーサ?)
声が苦手だという賓客に合わせて、視線のみで意思を込めれば、グロリオーサは、その意思を汲み取ってくれ、開きかけの口を閉じます。
ロックとカリンは、グロリオーサが説明をしてくれるのかとばかり思っていたのに、急に口を閉じてしまったので、また顔を見合わせてしまいます。
顔を見合わせてしまっている伴侶と執事に、ピーンが揺ったりと言葉をかけました。
『……多分、こうやってグロリオーサ・サンフラワーと話していたのなら、カリンとロックも何となく、トレニア殿が迷子ではなくて、グロリオーサが迷子になってしまった理由。考えるだけでも、結構想像がつくものだと思うんだけれどなあ』
『え?』
『私と、奥様にでもですか?』
執事は思わず、賓客であるグロリオーサをまじまじと見つめてしまいます。
(グロリオーサ・サンフラワー、なら)
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