昔話  兵(つわもの)の掘る穴ー真実その4ー

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この世界の成人なら題目ぐらいなら誰でも知っている"恋愛物語"で、ロックはと眼を通して……大いに理解に苦しみました。 どうして好きな相手と会えないだけで、この登場人物は病になって寝込むんだ? どうして命がけまでして、愛の証明をしなければならないんだ? かなり辛辣な感想と、もう遥か昔に亡くなった(旅立った)であろう物語の作者に質問したいという気持ちを持ちながらも、とりあえず執事はその"恋愛"の本を読み終えていました。 そして、どうしても理解が出来ずに憮然とした顔をして数日を過ごし、ロックの中で最も身近にある、唯一の"恋愛"のお手本で、自分が誠心誠意仕えるロブロウ領主夫妻を眺めていましたが、ある意味一番恋愛の古典文学から遠い御両人にも見えてもいます。 ロックの読んだ古典文学の本の中の主人公の男女二人は、親や縁戚が決めた縁談の相手を、結婚するぐらいなら死んだ方が良い、というぐらいに拒絶をしていました。 敬愛して仕えているロブロウ領主夫妻は、全く親に歯向かいも反抗しないで、顔合わせもせずにあっさりと互いを受け入れていて、そして何より、伴侶となるカリンの方はロックから見ても判るぐらい"ピーン・ビネガー"を夫として信頼しています。 ピーンもピーンで、嫁としてのカリンを大事にして、与えられた"縁"に感謝をして、それを受け入れていて、そんな2人に仕えている執事は、どうして自分の意志が尊重されないだけの恋愛に、ここまで生きるだ、死ぬだって事を、この古典文学の本は記しているのだろう?そして、どうしてこんなに人気がある書物になるんだろう?、と思う事になりました。 そんな悶々と執事の様子は、弟のように可愛がる領主夫妻もすぐに気がつきます。 細君は若い執事が恋でもして悩んでいるのではないのでしょうかと、夫に告げると、ロックの"依存"について承知している主は腕を組んで頭を傾げていました。 とりあえずピーンが尋ねてみれば、方向性は違うのですが執事の青年が"恋愛"について悩んでいることには間違いありません。 『まあ、あれだ。一般的には人様の恋愛ごとには、頼まれでもしない限り、関わらない方が良いというのが、私の持論だ。でも、惚れている相手の為に何かをしてあげたいという気持ちは、恋をしている間は出やすい、希有な気持ちだと思うがね』
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