昔話  兵(つわもの)の掘る穴ー真実その4ー

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それから、ふと思い付いたように、形の良い顎に執事は手袋を嵌めた手を当てて、にっこりと笑って口を開きます。 『ああ、でもこの古典本の著者の方が、という戒めや言い聞かせのつもりをもって話を書いていたのなら、ある意味とても冷静で懸命な方だと尊敬致します』 淡々とそんな事を口にして、本の感想を改めて述べました。 『やれやれ、ロックは意外と貴族社会には、なかなか手厳しいな』 その古典文学の作者が、貴族ではなく貴族の世話をする側女が記録的に少しばかり"批判の意味を込めて書いた"という逸話を知っている主は、執事の観察力に心内で、舌を巻きます。 『それは心外です、旦那様。どの貴族様達も、旦那様とカリン奥様のようなご夫婦でしたなら、きっと世間はもっと良い世の中のはずです。 少なくとも、セリサンセウムという国は、一夫一婦が法律で定められてます。 国王陛下や、権力と扶養能力がある方では側室が例外的に認められているみたいですが、跡目争い等でろくな話を聞いた事がございません。 最も最近でも、先々代に"一掃"という出来事があったのは旦那様はご存じでしょう?それに若い方で読解力がない方は、恋愛の本に載っていることを真に受けて、周囲を見えなくなっている方もいるとか。周り巻き込むような恋愛なら、迷惑に決まっています』 どうやら"自分勝手な恋愛"に対して、若い執事は大きな怒りを抱いている事に主である賢者は、結構驚かせて貰っていましたが驚きを誤魔化す為に、また苦笑いを浮かべる。 『とりあえず私とカリンの事を、誉めてくれた事には礼を言うよ。これからも、ロックに誇って貰えるようにカリンの事をから、よろしく頼むよ』 大切にする、とまるで宣誓をするように"伴侶(カリン)を大切にする"という、相手の事を思いやる"恋愛"をしている主の言葉が、執事には嬉しい物でした。 そして恋愛は苦手ながらに思うことは、もしグロリオーサとトレニアの間に"恋愛感情"があったのなら、自分の仕えるロブロウ領主夫妻のように"互いを想いあう"ものだと考えます。 (恋愛については本当に良くはわからない。でもグロリオーサ様が、"恋愛感情"でトレニア様を想っていたのなら。そんな相手が"泣いてる顔を見られたくはないという気持ち"を尊重したなら、追いかけない……?)
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