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しかしながら、トレニアの気持ちを優先させたとなると"グロリオーサの迷子"が、成立しなくなりました。
『……グロー様は、とてもトレニアさんの事を大切に思っていらっしゃるんですよね』
カリンが出し抜けに"色んな解釈"に取れる言葉を口にして、グロリオーサに尋ねたのなら、尋ねられた当人は、本当に僅かにだが顔を赤らめてから、小さく頷きます。
『……カリン奥様』
どちらかと言えば寡黙な事の多い、寧ろでしゃばる事は好まない人物のの発言に執事は目を丸くしました。
"頼りになる弟"の気持ちロックに対して持っているだけに、実は少しだけ"お姉さん"も気持ちを持っているカリンは、執事に向かって微笑んでみせます。
(珍しいでしょうけれど、私に任せてもらってもいいかしら、ロック?)
領主の仕事、賢者で古今東西の魔術を集めている夫と、その仕事を手伝う執事を、妻であるカリンは手伝うことなど出来ません。
けれど"大切で好きな人"を思う気持ちは、2人以上に分かると自信を持っていました。
『最初はトレニアさんが願った通り、彼女の泣き顔を見ないようにその場で待っていたんですよね』
『ああ、そうだ。トレニアがそう言ったからな、俺はその通りに』
するとまた出し抜けに、グロリオーサの言葉を遮るように領主夫人は言葉を挟むようにして、続けます。
『でも、それ以上に心配もしていた。けれど、追いかける事が出来ない。追いかけて、"泣いた顔を見ないで欲しいという"トレニアさんとの約束"を違える事で、彼女から嫌われるかもしれない』
"嫌われるかもしれない"という言葉に、賓客はいよいよ顔を真っ赤にさせていました。
『心配なのに、追いかける事が出来ない状態』
優しくもきっぱりとして、赤いグロリオーサに向ける妻の言葉に、領主少々人の悪い笑顔を浮かべます。
(こういった事は、トレニアの方がロックよりも"大人"なのかもしれない)
そんなことを考えながら耳に入れている、カリンの言葉はまだまだ続きました。
『本当なら、仲間同士、親友同士、涙を流したのなら追いかけても構わないはずなのに、"追いかけないで"というトレニアさんの気持ちを、追いかけたいという貴方の気持ちより優先させた』
『……嫌われたくないってのもあった。"今の関係で"って気持ちも……』
『……でも、仲間の方が"追いかけるように"背中を押してくださった?』
『ああ、"アングレカム"に』
グロリオーサがそう答えた時、賢者の目が鋭く細くなります。
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