昔話  兵(つわもの)の掘る穴ー真実その6ー

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それはいくら賢者ピーン・ビネガーの研究の手伝いや、身辺の世話がやけたとしても、ロックには出来ない、カリン・ビネガーの役割で、仕事でもありました。 "聞き上手の領主夫人"がいるお陰で、領民から領主への印象は大分助けられている所もあるのは確実となります。 執事であるロックも、領主夫人であるカリンも一番は領主で、主であるピーン・ビネガーに代りはありません。 "ビネガー家"を支えたいと考えていて、"自分では出来ない、ピーンと助けとなる事が出来る人"を互いに尊敬して、大切に思っています。 (こんな乱暴をなさる方だったなんて) だから、"カリン・ビネガー(大切な人)"を脅かすような態度を取る人物は、客人でも許せませんでした。 (例え旦那様が魔術や魔力の才能を越えると言われても、関係ない!) アングレカムという人物の世話焼きぶりや、自分を庇ってくれたことを含めて感謝をしていましたが、一気にその気持ちが吹き飛ぶぐらい、許せくなくて、一言文句を言おうと、客人の側に駆け寄ります。 『お客様……!』 呼び掛けたと同時に、アングレカムは綺麗な笑顔を浮かべ、それはとても綺麗なものでした、文句を言おうとする執事を圧する力が充分にあるものでした。 『……この通り、私は顔は綺麗かも知れませんが、頭に来たらとても乱暴な振る舞いをするような人間です。無二の親友にすらこんな感じなのだから、もしかしたら、頭にきたなら、"恋人"にも"配偶者"の方にもするかも知れませねぇ』 酷く残忍で冷酷に見える、そう感じた瞬間、頭に(テレパシー)が響きます。 《すみません、"ロック君"》 圧する凍りつく笑顔を"執事"に向けながらも、(テレパシー)でロックの頭に届いたのはアングレカムの感情を伴った謝罪の言葉で、思わず丸く口を開けて、謝罪主の綺麗な緑色の瞳を見上げるように見つめました。 凍るような笑顔が一瞬だけ、"苦笑い"の形になって直ぐに戻ります。 《少しばかり"悪魔のアングレカム・パドリック"を印象付ける為に……。いえ、今回の場合は"顔は良いかもしれないが、性格が最悪な男アルセン・パドリック"を印象付ける為に、今は"デモンストレーション"に領主夫妻とロック君も含めて付き合って頂きたいのです。 どうやら、騒ぎになって婦人の方々が"こちら"を見ていますので》 アングレカムに(テレパシー)でそう告げられて、ロックは屋敷のどこかしこから注がれる視線に漸く気がつきました。
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