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一度固く眼を閉じ、そのままの執事は、中庭が谺するような音を、執事の白い手袋を嵌めた手を叩いて響かせたのなら、一斉に中庭繋がる扉や窓が開き、それと同時に、お手本の様な驚いた婦人の声が、次々と響きます。
『何だ?皆騒ぎを聞いてここを覗いていたのか?』
グロリオーサだけが本当に何も判っていない様子で、屋敷の扉が一斉に開いた事に驚いて、絵本をしっかりと抱えていました。
《ああ、この前仕込んでみた"魔術"上手く扱えるようになったんだな》
ピーンが"ビネガー家の執事"の顔になったロックに声を送れば、届いたと同時に、相手は目礼だけをして、薄く目を開いて、人の気配がしていた方を確認します。
中には転がり出るようになってしまうメイドもいて、また溜め息をつきたくなりました。
(ロブロウで一番格式高い屋敷の使用人だというのに)
執事服の内ポケットに手を突っ込んで、数枚の紙を取り出して高く掲げます。
『先程、お客様が仰るように、手紙を渡したものは、自己申告で本日の就労後私の元に来なさい。ちなみに手紙は全て迷惑ということで、私が預かっています。もしも、自己申告してこない場合は、朝礼で文章と名前を読み上げるつもりですので。宜しいですね?』
《あーロック、それ私が考えた処罰じゃないか》
ロックが冷徹に言い述べた後に、ピーンが子どものように声で文句を送ってきます。
主が下手くそ過ぎる芝居をする事から気を逸らせたのは良いが、どうやら自分の策をロックの口から言われた事に、軽く不満を抱いていました。
《"爽やかに相手の傷口に、塩と香辛料と砂利を刷り込むような事"とか言っていたけど、そんな反応ない――…》
―――やだ!
―――困ります!
―――止めてください!
ピーンの文句が終わりかけの頃、予想出来て、待っていた婦人の使用人達の"悲鳴"が響きます。
《このように旦那様が提案なされる"罰"は、使用人達からこういった反応がありますので。くれぐれも思い付いたとしても提案するのは、私の前にだけにしてください》
―――最低!!
ピーンの提案に止めを刺すように、ロブロウでも美しい事とそれ以上にプライドが高い事で有名な客間メイドの声が轟きました。
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