昔話  兵(つわもの)の掘る穴ー真実その6ー

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潔い料理人には、丸々とした西瓜を、包丁で見事にスパッと割るようにグロリオーサの紹介を退けます。 親友と最近できた友人から連続して否定されてしまいましたが、グロリオーサは特に落ち込む事もなく、「ウーン」と小さく唸ってから逞しい首を横に曲げる程度の反応となりました。 そして出された菓子はしっかりと受け取り、先程と同じ様に、美味そうに食べ始めます。 その様を見ると、口では負けん気の強い事を言っておきながら、マーサは嬉しそうに笑っていました。 領主夫妻は客人と使用人、3人による喜劇にも見えかねないやり取りを見て、アングレカムの防具の繕いをしながらも、顔を見合わせて苦笑いを浮かべます。 ビネガー家の執事となるロックは、一番気の合う仕事仲間ではありますが、一応"部下"という扱いになる料理人に注意を、こちらも領主夫人同様、器用に客人の防具を整備しながら注意を口にしていました。 『……マーサ。グロリオーサ様は一応偽名を使い、身分を伏せられて、姓は王族の方。そして王族の方かもしれませんが、本当なら国軍に知らせなければならない罪人かもしれませんが、何より旦那様のお客様です。もう少し言葉の使い方を、気を付けてください』 しかし、料理人はふんと軽く息を出し、素直には聞かないという態度になります。 メイドの仕事は最低限出来る程度の覚えはありますが、調理に関してはこの領地では最高峰の腕前の自負がある副竈番の人物はそれは見事な手際で、今度は領主夫妻の紅茶の支度をこなしながら、口を開きました。 『私にとっちゃ、グローさんは、"グローさん"さ。鬼神だの決起軍(レジスタンス)だの知ったこっちゃないね』 料理人が"粋"にそう啖呵をきると、執事は小さくため息を吐き、下げたくなどはありませんが、客人にあたるグロリオーサに向かって執事は頭を下げます。 黒髪と黒目の客人は、菓子を口に含ませたまま笑顔で、モゴモゴと口を閉じたままで、首を横に振り「気にしてはいない」というのを仕草(ジェスチャー)として強調します。 それからアングレカムから、「口の中のものを飲み込んでから喋りなさい」と叱られて、グロリオーサは素直に従い、盛大に喉を鳴らして飲み込んでから、頑丈そうな歯を見せて笑みを浮かべていました。 『俺は、グロリオーサでもグローでもどちらでも構わないから、気にしないぞ。何ならマーサが俺の事が"グロー"の方が親しみやすいなら、これからもずっと、それでいいさ』 『……それでは、使用人としてのケジメがつきません』
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