昔話  兵(つわもの)の掘る穴ー真実その6ー

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(これで最上でなわけではないけれども、だもの。少なくとも、私は領主様の伴侶として後悔をしてはいない) そんな中で、比べてはいけないと思いながらも、"家庭を持ち子どもを持ちたくても持てない"立場であるトレニアという婦人の事を考えしまいます。 (子どもを産んでも、懸命に育ててもいざこざは絶えない時に、貴女は、トレニアさんはどう考えるのでしょうか) ――いつか、国が落ち着いたなのら、バンも父親のように"(かりそめ)の自由"でも良いから与えてやりたいと、カリンは考えていました。 そして、夫と執事ののような互いに解り合えている"友"と巡り会えたなら、それに越したことはありません。 『奥様、こちらに紅茶を置きますね』 先にピーンに紅茶を出した後、次にマーサが紅茶を出そうと語りかけられて、カリンはその驚きに、針の先端の動きが乱れます。 『……!』 痛みの声こそだしませんが、針がカリンの指先に刺さり顔をしかめて小さな紅色の粒が小さく出来てしまっていました。 それに気がついてマーサが紅茶を盆に乗せたまま側のテーブルに置き、珍しい失敗をしたカリンと、その血の粒がある指先と領主夫人を見比べます。 『まあ、大したことはないんだろうが、大丈夫か、カリン?良かったら、治癒術で治してしまおうか?』 整備している防具をマーサと同じ様にテーブルに置いて、ピーンが立ち上がり、ごく自然に妻の肩に手を置きました。 『いいえ、これぐらいなら領主様が仰るように大したことありませんから。すみません、縫い物に夢中になってしまったみたい』 そう返事をしている間に、ロックが側により、懐から清潔そうなハンカチを出して渡します。 『……"急いでいる"という言葉を聞いて、修繕の気持ちが焦ったかな?』 不意に出されたロブロウ領主の言葉に、書斎がの空気が緊張で俄かに張りつめそうにもなりますが、当事者の領主夫人の中に修繕に関して焦っていた気持ちなど微塵もありません。 それは忠実な執事も、威勢の良い竈番も分かってはいました。 ある意味"難癖をつけている"状態になっていますが、ピーン・ビネガーと付き合いが長いロブロウの住人には、彼が何か目論見があることでこのような行動を取ることに、察しがつきます。 《ちょっと、すまないがに利用にさせてくれ、カリン》 直ぐに断りの(テレパシー)が夫から届き、妻は目だけ伏せました。 『……だとしたら、重ねて本当に申し訳ありませんでした。しかし、急いでいるのは本当です』
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