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アングレカムは相変わらず言葉は丁寧だが、早くこの領地から引き上げようとする態度を崩す様子はありません。
中々頑なな様子で、速く仲間の元に戻ろうとする態度を、簡単には軟化させる様にはみえませんでした。
(どうやら、参謀殿は"絵本"については何かしら魔導に関係するものがあるとは判っている。しかし、今の所仲間の神父の"形見"程度の認識で、魔力と記憶を吸ったりと、謎の部分の解明は先送りしている。
それよりは、先ずは"国の平定"と言った所なんだろうな。
謎を解明をする為には、集中して研究出来る環境が重要なポイントになる。
絵本の謎を解明したいと言ったのなら、"この事"をついて、尚更さっさと仲間の元に帰ろうとするだろうしなぁ……)
"参謀"に如何にして自分の目論見を聞いて貰おうかとピーンが考えていると、アングレカムの肩をグロリオーサが叩きます。
親友が速く帰ろうと努めているのは分かっていながらも、グロリオーサは理屈では勝てないアングレカム相手に珍しく勇気をだし、言葉をかけていました。
『アングレカム、急ぐのは判るけれど1日だけでも駄目か?俺もさ、マーサの料理をお前に食ってみて欲しいんだよ。それに、やっぱり世話になった人や、仲良くなったロブロウの人達に挨拶とかもしておきたいんだ』
『不義理をさせたくはありませんが、時間が本当に惜しいと考えています』
グロリオーサも食い下がる事にため息を吐こうともしたが、"親友の特性"を思い出したアングレカムはふと表情を固めます。
『……参考にまで教えてください。貴方の仲良くなったロブロウの方々はどのくらい、いらっしゃるんですか?』
それから、例えるなら涼やかな笑顔を浮かべ、膝の上で組んでいた手を今度は、胸の前で褐色の美丈夫は組み直しました。
親友の僅かばかりだが前向きになった態度に、グロリオーサは顔を明るくして、質問に答えるべく、直近の記憶を掘り起こします。
『ちょっと、待ってくれ。数えるから、えーっと』
そう言って、逞しすぎると表現しても過言ではない両掌を広げ、名前のようなものを呟きながら、端から折り曲げて再び広げるという動作を鬼神の異名を持つ存在は2往復程繰り返しました。
それの数える仕草に、アングレカムは貼りついたような笑顔を浮かべたままで、見守ります。
『……ざっと軽く見積もって、50人くらいだ!』
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