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『……50という数字に達するには、指の折り返しが1回程足りなように拝見しましたが?それとも手の指を使って数える時に、同時に足の指を駆使して数えるバロータ神父の荒業を、会得でもしていましたか?』
これには後頭部の中程に結ってある長い黒髪を、馬の尻尾のようにして頭を左右に振りました。
『そんな器用な事は俺には出来ん!プラスの20人は最初から含まれている、この領地に保育所にいる子ども達だ。名字は覚えてないが、名前と人数は覚えてる!』
それから数える為に使っていた手を腰に当てて、"えっへん"という具合に、逞しい胸を張ります。
胸を張る友人から、綺麗な瞳からの視線を、この土地の領主に移し、そこには大変不貞不貞しい笑顔を浮かべて、結局奥方の指先に治癒術を施している人物がいました。
(グロリオーサは"1人"になることが、難しい人というのを、忘れていましたね……。そして、ここの領主さんはそれが判っていらっしゃると……)
後ろめたさを抱え、ある意味枷を身につけたような状態で、不貞不貞しい"賢さ"が滲み出ている男からの誘いを断るのは、大変難しそうにアングレカムには思えました。
(しかし、ここは私も"親友"の為に、退けないんですよ、領主殿)
『グロリオーサに余計な心配をかけてしまったから。帰ってきたなら、元気に振る舞わないとね。でも安心して、無理はしないから』
グロリオーサを振り払って、天幕を出ていったトレニアは、落ち着いた様子で戻っていて、少しだけ目元は赤くて涙の後を残してはいたが、優しい紫の瞳は落ち着き、澄んでいます。
そしてグロリオーサの前では出来ないアングレカムの話を聞き終えても、静かに頷いてくれました。
『うん、私の夢は仕方ないって諦められるから、安心してアングレカム。
今の状態で、万が一に子どもを授かったとしても、こんな落ち着かない世の中たったら私にだって、きっと色んな後悔してしまいそうな事が起きるって判るから。……私には自分の赤ちゃんを抱く事に、縁がなかっただけ。
それだけの事、それに赤ちゃんは、優しく守ってくれる人なら分け隔てなく微笑んでくれるだもの。
赤ちゃんが拘らないのに、それを世話する人が拘ってたらダメよねぇ』
心を読めなくても、無理をしないと言った親友が、強がっているのが判ります。
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