昔話  兵(つわもの)の掘る穴ー真実その7ー

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遠い未来に、この領地でも客人と妻のように"友人"てして男女が並ぶ日が来るのだろうか、そんな考えが不意に頭を過りました。 そんなことを考えている内にロックによって手入れを怠われる事なく整備された扉が、静かに閉じると、領主はくるりと扉の方には背を向けます。 『……今日は天気も良いし、馬もグロリオーサが一緒なら使えるだろう。でも、50人という人数は今日1日では恐らく回りきれないだろうなあ。まあ、保育所の20人にはあっという間に出会えはするだろうが、多分"1日は付き合え"とばかりに子ども達がよってくるだろうがな』 扉とは真逆の位置にある今は窓ガラスが割れた為に、和紙が貼られた窓辺を見つめながら、ピーンが呟きました。 やはり和紙越しの光の雰囲気が良くて、いずれ何処かの部屋にでも設えたいと考えます。 『……領主殿は、決起軍(レジスタンス)の参謀の私と何を話したいというのですか?』 アングレカムはピーンの世間話に誘うような物言いには一切乗らずに、腕と脚を組んで目を閉じて尋ねていました。 『折角2人きりになる時間となったんだ、そんなに急ぐこともないだろう?』 ふざけているようにしか感じられないピーンの言葉に、アングレカムは明らかに機嫌を損ねた表情を浮かべ、眉間にシワを寄せています。 『疑問に疑問の言葉で返すのは、失礼だとロック君に言われたことはありませんか?それに私の立場にしてみれば、ロブロウ領主殿に、脅して時間は毟りとられたと表現しても差し支えがありませんからね。なら、毟られた分は有効に使わなけれ勿体ないので、簡潔にお願いしたいばかりです』 (……時間に些か様子が、アングレカムにあるみたいだな) 『――グロリオーサの率いる決起軍は、"巧遅(こうち)拙速(せっそく)()かず"というのを方針(モットー)にしているわけかな?』 この言葉にアングレカムは閉じていた綺麗な緑色の瞳を開いて、ピーンを睨み、その緑色の瞳の中に、悔しさが滲んでいるのも見てとれました。 『グロリオーサや、仲間達は懸命にやっています。もしもロブロウ領主殿が、決起軍(レジスタンス)の活動が速くとも稚拙(ちせつ)と感じたのならば、それは私の考えた策がなっていないだけのことです』 、といった具合で賢者(ピーン・ビネガー)はニヤリと笑います。
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