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『領主殿が仰る通り、決起軍が、私の練った策にのっとり、国の平定を急いでいるのは、事実です。
国を愁いている事もありますが、それは仲間内での事情があった上でもあることも認めます』
決起軍の参謀は、脅されるように始まったロブロウ領主との"会談"で言われた事を認めました。
『ついでに、"稚拙な策"で有ることも、認めてはくれないのかな?』
意識して意地悪くそういうと、アングレカムはまた悔しそうな表情を浮かべて、形のよい唇を強く噛みます。
だが悔しそうではありますが、不思議とそこに"怒り"の感情は殆どありません。
策を貶されてた悔しさはあるが、顔に怒りの色を浮かべない事に、賢者はアングレカム・パドリックの中にある潔さを感じて取れていました。
("策士、策に溺れる"という言葉は、アングレカム殿には無縁のようだ)
綺麗な男の浮かべる"悔しい"という粘りのある表情が、賢者には嬉しく、そして頼もしく思えます。
(自分が練った"策"を以上に良い策がないか、常に考えている。今やっている事に自分の考えた策に、"この方法を取るしか出来ない"と執着も、諦めてはいないという事か)
自分が考えた"策"を否定された事が悔しいわけではなく、今行っている策以上の、"上策"を考え出せない自分が悔しい。
アングレカムが浮かべている悔しさは、自分自身に対してのものだと、目元から"意地悪さ"を抜いて、ピーン・ビネガーは微笑んんでいました。
そのピーンの微笑みは、自分の策を"稚拙"と呼ばれた今のアングレカムには、不敵なものにしか見えません。
なので次に出されたロブロウ領主の言葉に、随分と驚かされる事になります。
『だが、アングレカム・パドリックの出発が、大望を持つことが困難な妾腹の農家の次男で、それでもひねくれる事なく、拗ねる事もなかった心根は私的には、尊敬・賞賛に値する。緩急伴う農家の仕事の合間、友の助力を得て、隠遁の賢者から学び、身心を鍛えて、決起軍に入ったという境遇から推し量れば、今行っている"策"はよくやっているという評価が本当は、妥当なのだろうな』
そこまで言われ、噛み締めていた唇の力が抜けて美丈夫はまだ"不敵"にしかみえないロブロウ領主を見つめました。
(このピーン・ビネガーという人物が、私という人を誉めているのか、貶しているのかが区別がつかない)
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