昔話  兵(つわもの)の掘る穴ー真実その7ー

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産まれて初めて、自分に価値があるような気持ちを与えて貰った様な気持ちになりました。 それは、グロリオーサの金の事もありましたが、親が躊躇った事にも含まれています。 グロリオーサの財産の半分以上だという金を差し出したのなら、親は特に血の繋がりがない義母は、アングレカムをパドリック家から、解放するものだと考えていました。 だから例え僅かでも"親"が、自分を手離す事について迷ってくれた事が嬉しく思っている自分(アングレカム)に愕然ともしますが、僅かでも迷ってもらえるほど、気持ちをかけてもらえていることを、産まれて初めて実感します。 そして"結果"的には、アングレカムは農家の次男という立場から、離れることになりました。 賢者が「彼は農場残るよりは、今は金銭をいれた方が、跡を継ぐ長子の為にも、アングレカムも為にも(いず)れなるだろう」と忠告を出しならば、それに両親は同意します。 アングレカムが、決起軍(レジスタンス)に参加となるまでの時間的に言うならば、きっと短いものでした。 先ず、意を決したグロリオーサが王族の姿をして、パドリック家に訪れ、アングレカムを従者に欲しいと申し入れます。 『直ぐには返事が出来ません。折り返し御返事しますので、お待ちください』 と、同い年の息子の友人ぐらいに考えていたグロリオーサを先ずは返して、その日は周りの小作農と同じように畑に出ていた次男を呼び戻しました。 直ぐ様、父と義母がアングレカムを伴って、いつもように昼寝をしている賢者の住まいである洞穴に、尋ね、相談します。 相談自体は夕刻の前には終わり、グロリオーサに返事を出したのは日が沈む前なのだから、大層速いものでした。 そういった事もあって傍目から見たのならば、父と義母は"金であっさりとアングレカムを手離した"と周りが誤解しても仕方がない形にはなります。 (グロリオーサぐらいには、"真相"を話そう) 『新しい本を仕入れたんだ、ちょっと寄って読んでみないか』 相談が終わり、そんな事を考えながら親と共に戻ろうとするアングレカムを、賢者がそう言って呼び止めました。 父親がアングレカムに向かって無言でただ頷きます。 寡黙な父がそうやって頷くことが、"賢者に従いなさい"と言っているのが判ったアングレカムもまた静かに頷きました。 頷き返す息子を確認した後、義母は何も言わずに父の後に付いて、洞穴を出ていきます。 『じゃ、本を仕舞っている穴の方に行こうか~♪』
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