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アングレカムの親が出ていくのを確認した後に、賢者は後頭部に両手を組んで洞穴の本を仕舞っている部屋へと進み始めました。
その後ろ姿を見つめながら、不意にアングレカムの中に疑問が擡げます。
(思えば、親は賢者殿には従わなければならない事情でもあるのでしょうか?)
判断がつかないときは、経験豊富で賢い人に相談するという道理はアングレカムにも判っていました。
けれども、こうやって自分の親と賢者が"相談"は、まるでアングレカムの人生の岐路の処遇を、賢者に判断を委ねているようにも感じられます。
賢者は村の大人達にも何かと頼りにされていたり、相談事を解決したりする話はよく耳に入るので、多分"おかしい事"ではない筈でした。
ただ自分の"父親"という人は、この地域を代表する大きな農場を切り盛りする人物で、良くも悪くも"ワンマン″でもあります。
(父が王族のグロリオーサが、アングレカムを従者にと引き抜きに来たことで、義母までつれて賢者殿に相談をすることなのか?)
擡げた疑問が、アングレカムの中で確りとした形と言葉になった時、その賢者に呼び掛けられていました。
『アングレカム、止まってないで早くおいでよ。今日は帰って明日からの準備とかあるんだろうからさ』
まるで、アングレカムが疑問を確りと形作るまで待っていたかの様な時期となります。
失礼しました、と一言言ってアングレカムは後に続いて、"図書室"と言い張る沢山の本が積み上げられている穴蔵に進んで行きました。
穴蔵に進む事は、外と世界を遮断する事で、明かりは賢者がある程度進む度に指を弾いたら灯る、備え付けられ蝋燭の明かりだけとなります。
やがてアングレカムには結構見慣れた"図書室"へとたどり着きました。
『……グロリオーサには、今日の昼の出来事を話さない方がいい』
新しく手に入れたらしい本を手にとり、開いて中身を確認しながら、賢者は、アングレカムの先程考えていた事を見越したように、徐に口を開きます。
何時もとは様子が違い、重々しい雰囲気を賢者は纏って喋っていました。
『グロリオーサは、拘りがないようでいて、誰よりも"家族"を大事にする"人"だ。もし、アングレカムがグロリオーサが考えているような生い立ちでないと知ったのなら。家族と上手くいってないというのが、誤解だと理解してしまったのなら、決起軍にはアングレカム・パドリックの居場所をグロリオーサは作らない』
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