昔話  兵(つわもの)の掘る穴ー真実その7ー

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いつも何事にも囚われないような、軽やかな口振りで話す賢者が、重々しく語る言葉にアングレカムは驚き、そして語る内容は、"真実"なのだとも気がつきます。 『もしも、グロリオーサについて行きたくないのなら、今先程の出来事を話してしまえばいい。それで農家の優秀な次男アングレカムが、王の庶子グロリオーサに金での従者として引き抜かれる話は"御破算"になる。そうするかい?』 その言葉には、直ぐに頭を左右に振りました。 『いいえ、親に莫大な金と私の身を比べた時に、僅かでも迷われたことだけでも、私はそれで十分です』 薄情という言葉も当てはまるのかもしれませんが、本当に、それだけで、アングレカムにしてみれば、育てて貰った親への気持ちに区切りがつけてしまえます。 『それよりも、グロリオーサに多大な"金"を、税金という民の血税を私を自由にする為に対価として払われた事で、やってみたかった事に挑む腹が括れました』 自分が学んだことが、興味を持ち、それが何処まで"国の為に活かされる"かやってみたいと、その端正な顔の内側で、アングレカムは幾度も考えていました。 ただその前に、国を平定するという"大仕事"をこなさなければなりません。 アングレカムがやってみたかった事は、"大仕事"こなした後でなければ、取り組めない事でもありました。 (幸いにも、私もグロリオーサには及びませんが戦える力を持っている) そしてグロリオーサが苦手とすること、多分彼自身も、不得手とする"魔術"や"(さか)しさ"を、補って欲しくてアングレカムを求めている事は判っています。 『……アングレカムは、真面目だなぁ。でも、真面目なこと全く恥じていないところが、私は大好きだよ』 口調を軽やかなものに戻してそんな事を言う賢者と、アングレカムの影が少しばかり揺れたと思ったら、蝋燭の炎が揺れていました。 アングレカムが賢者を見れば、本を未だに弄びながら笑っています。 (気持ちと魔術でつけている炎が、繋がっているんですね) 『……口に出したなら、賢者といえども国軍にしょっぴかれるような事だろうけれども、私はグロリオーサを始めとする、"今は"ジュリアンを入れて3人か。 この3人なら、時間はかかるがきっと"出来る"事だろうと思うよ。どちらにしろ……』 揺れが治まった中で、賢者は断言するように言った後に、最後の方だけ言葉を濁しました。
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