昔話  兵(つわもの)の掘る穴ー真実その7ー

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(スマン、カリン) 厳しい表情を保ちながら、言葉を続ける合間に妻に短く詫びました。 (いいえ、続けてください。私も、よく理由はわかりませんが、マーサとロックは1度書斎を離れて、慣れた仕事をして、気持ちを落ちつかせる事は間違っていないと思います) 自分の"意"を汲み取ってくれる妻の返事に、心内に喜びを隠しながら、ピーンは厳しい言葉を続けます。 『つけ文をしたメイド達は、態度を改めて直す猶予など与えなくていい。全員、全て暇を与えなさい』 先程、ロックは使用人達の処分は、メイドの花形である仕事からは降格する程度の言葉だけに止めていました。 しかし、今、主は解雇を口にします。 それ以上は予断をさせる間もなく、はっきりとピーンがそうつげると、まず動き出したのは執事でした。 無言で恭しく頭を下げて、修繕に使った工具の入った箱を持ち上げ、そして、職場仲間であるマーサを真っ直ぐと見つめます。 《行きましょう、マーサ。旦那様の命令です、従うのが私達の務めです》 職場の仲間から、そう(テレパシー)を送られ、副竈番は最初こそ戸惑っていたが、直ぐに頷いて、片付けがすんでいた紅茶のセットを、抱えました。 マーサも殆ど初めてに近い、ピーンの苛烈な物言いだが、言ったことは今の自分の気持ちにはとても有りがたいものとなります。 そして、ロックとマーサは連れだって「失礼します」と、執事が代表して言い、書斎を出ていき、扉が閉まってから、アングレカムが口を開きました。 『……人の良さそうな、優しい領主の振る舞いをしておきながら、領民の生きる糧となる職を容赦なく恥をかかせたから、奪う。それは、話をしないなら、国にグロリオーサや私の事を報せる事を脅す為の方便と見ても良いわけですか?』 『軽く脅してでも、ロブロウ領主は、レジスタンスの参謀のアングレカム・パドリック殿と話したい事があったのだ伝わったなら私の中では、目論見が成功したに近い。ただ、解雇するのは本心だ。 色恋は素晴らしい事は私も認める所だが、それで仕事を蔑ろにして、他に懸命に働いている者と同じ足を貰おう等とは、雇い主として認めるわけにいかない』 そこで張り詰めていた空気を弛めるように、ピーンは口角をあげて、腕を組み、眉を上げ笑みを浮かべました。
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