昔話  兵(つわもの)の掘る穴ー真実その6ー

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トレニアが人の心を読めず 魔術が得意でなく 並みの兵士より強くなく 戦う力もない 只の赤ん坊が大好きなだけの世話好きな女性だったのなら 例えあの不幸な出来事があって、子ども達が犠牲になった事に、国に対して唇を噛みきる程悔しがっていたとしても、もしも故郷に残っていたのなら、今頃、あの田舎の村でそれなりの伴侶を得て、きっと彼女は出来る努力の上で築いた生活の中で、作り上げた"幸せ"を大切して生きていたのが想像することが出来ました。 でも、戦う力があり決起軍に参加したならば、彼女の性格からして、平定を終えるまで決起軍から抜ける事はないのは判ってもいます。 (いいえ、これはですね) 気の強い所はあるし、"魔女"と呼ばれる力があったとしても、優しい婦人なので人生で伴侶を得ることは必ず出来ると、アングレカムは思っていました。 今子どもを授かったとしても、後悔をするとは言うけれど、例え国が落ち着かなくても、トレニア・ブバルディアならその中で家族を作り、暮らし、生きていける可能性は十分あります。 決起軍(レジスタンス)には彼女が(おのずか)ら参加し、グロリオーサには半ば強引に認めさせて入ってきました。 しかし、彼女は入った事を後悔する気持ちを、十数年たった今になって抱えてしまっています。 かつて決起軍(レジスタンス)の仲間にいたとても気障で優しい男は、"賢くはない"と口にしていましたが、誰よりも気が回る人でもあったので、こうなること危惧していました。 それを賢いと思う友人であるアングレカムに告げています。 (ジュリアン、貴方は、「賢いアングレカムなら、前もって教えといたら何とか打開策を思いつくだろ」と仰ってくれましたが、どうしようも出来ません。私は、国の平定を考えるだけで精一杯でした) そしてアングレカムは、迷っているトレニアを"卑怯"な言葉で決起軍に縛り付けていました。 でも、彼女だけを犠牲にする気は更々ありません。 "悪魔"と名前の(かしら)につけられも仕方ないように振る舞う覚悟は出来ています。 (……私は、夢を半ば諦める形で目論みに乗ってくれた"親友"の為に、急がなければならないんです) 不意に胸元が小さく揺れて、バルサムから貰った指輪が包まれたハンカチが動いたのを感じますが、表情は先ほどの笑顔のまま全く動かしません。
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