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声量はそれ程ないが執事の懇願するような声に、賢者は抱えていた防具を落とした。
柔らかい土の上に落ちた客人の防具は、音は吸収され、音は殆ど辺りには響きません。
防具を落とした当人は、上げていた口の端を下ろして口を真一文字にし、瞬きを数度繰り返し、どちらかと言えば呼び掛けた執事の方が狼狽えていましたが、"ロブロウ領主"としての主の為に言葉を続けました。
『旦那様、突然声を上げてすみません。ですけれども、今は、今はお客様の事を考えて下さい。確かに偽の剣を預ける、そんな無礼を働かれ、私も応戦しました。
もし、今"客人"として相手をなさらないと決められたのなら、私はそれに従います。
けれど、迷い人となった賓客を遠方から迎えにこられて、理由は分かりませんが、こうやって御加減を悪くされています。
そして時世は、旦那様も憂慮しているように、武器を簡単には預けるのには剣呑な時代。
全てを踏まえて、領民に敬愛される、ロブロウ領主、ピーン・ビネガーとしてのお役目と振る舞いをお忘れなく、お願いします』
(……貴方が"自由"を諦めたのは、私が知っています。でも、領主として生きると決断した事も忘れてはいません)
思い付く限り、賢者に"愛され、必要とされるロブロウ領主"を喚起する言葉を告げて、ピーンが自分で決めた事から外れそうになったのなら、執事はそれを押し止めます。
それが、ピーンに望まれたビネガー家の執事ロックに望まれた"役目"と自覚しているからこその行動でした。
「ロックは執事になったのなら、賢者を守る事が第一な秘書ではなく、ロブロウという土地を治めるビネガー家を守るのが、何よりの仕事として欲しいんだ」
依存し、心酔する"深謀遠慮の賢者、ピーン・ビネガー"が例え今、眼前に垂涎するような研究対象を見つけてしまったとしても、"領主ピーン・ビネガーが決めた決断"を違えたものにしない為に、動きます。
(私がなすべき事は、ピーン・ビネガーが治めるのがロブロウにとって最良になる様に、仕え、努めるの事)
"研究に没頭して、人の命まで落としたのなら、きっとピーン・ビネガーは後悔をする"
"昏倒した客人を放置したなら、ロブロウ領主としてのピーン・ビネガーの名声が落ちる"
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