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それにロブロウを去る事にもなるのなら、ピーンが自慢もしていた新しいロブロウの郷土料理を食べたいという思惑もありました。
マーサが研究して作ったという料理の作り方を教えてもらって、帰りを待っている"大切な親友"にも教えてやりたいと思います。
トレニアを探す事で仲間とはぐれてしまいましたが、グロリオーサは決して探した事で、嫌な思いをしてはいないと伝えたいと考えました。
寧ろ、新たな出会いがあって嬉しかったから、トレニアは何も気にしないでいいからと、話したいと思います。
なので、グロリオーサは"友達"のマーサに普通に声をかけました。
出会って数時間ながらも、料理人の気持ちを推し量ることの出来ているアングレカムは、親友の無神経さに舌打ちをします。
(情報の"偏り"で、こうやって三竦みになるなんて"面白い"な………痛っ?!)
ロブロウ領主の太股の辺りに正に"抓られた"痛みが走り、手で隠している上がっていた口許は自然に下がり、目元は労せずとも上がらない状況になりました。
(お許しください、領主様)
微塵の気配も、自己主張も滅多にしないよく見慣れた細い腕が自分の腿の辺りに伸びて、衣服越しに僅かに震えながら摘まんでいます。
何よりピーンの身体に触れる程側にいるのは、1人だけしかおらず直ぐに抓った人の正体は判りました。
抓ったのは先程治癒術をかけて癒した、伴侶となります。
漆黒の中に、深い緑色を孕んだ瞳で、まるで自分が抓られたような痛みを堪える顔をして夫を見上げていました。
(ごめんなさい、領主様)
言葉の形を変えて再び謝りの声が、ピーンに届きます。
(けれども、領主様がロブロウ領主として宜しくない方に気持ちを傾けているように見えました。それに深く考え込んでいらっしゃるご様子で、服をひっぱっても気がつかれない様子でしたので、敢えなく。治癒術で、怪我を治してもらっておきながら、申し訳ありません)
カリンは自分からは言葉を声に乗せて伝える事は出来ません。
しかし、夫から「目を見て頭に言葉を浮かべてくれたなら、カリンの気持ちを魔術で読むことが出来なくもない。言葉を使ってしゃべれない時は、私にそうして合図を送ってくれたら、私がカリンの気持ちを読むから」と前に伝えてくれていました。
いつも頼りにしている夫に向かって、抓るという行為は、気の優しい夫人にはとてつもなく勇気が必要だった様子で、指先は未だ微かに震えています。
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