昔話  兵(つわもの)の掘る穴ー真実その6ー

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『"まあ、なんだ!立ち話もなんだから、お客様を二人とも、窓が割れてしまっている私の部屋に案内しようか、ロック"』 そして切実に口を開いて欲しくないと思っている側から、又してもロブロウ領主が、如何にも怪しげなイントネーションでそんな事を言い始めます。 客人の1人であるアングレカムは"諦め"がついた様子で、眉間にシワを刻んだままスッとロックに向かって腕を伸ばしました。 『それなら案内を早めにお願いします。ああ、今度も案内してくれるのは、執事さんに頼みますよ。これでも王都に恋人がいましてね。 しかも田舎者でもなく美人で、王族に縁続きのお嬢さんです。 せっかく有難い御縁が繋がりそうだというのに、変な噂がたったら敵いません。 ここの婦人の使用人の方々は、変なつけ(ふみ)ばかり押し付けられて、本当に困っていました。 それと執事さん、細剣をそろそろ返して頂けますか?』 アングレカムが眉間にシワを寄せながら、怒濤の如く喋り、"芝居が下手"なロブロウ領主をこれ以上喋らすまいと"してくれていた"とロックは気がつきます。 《ここは応用を効かせられるものが、応用を効かせれば良いと場面なのでしょうね。領主殿は、場所を移動したいという風に考えて発言しましたが、構いませんか?》 執事は客人の"気遣い"に、俯くようにして、また深々と頭を下げ、判断が間違っていなかった事に、アングレカムは目元はきつめながらも細めました。 《さて、自分の出世に繋がりそうな"恋人"がいますと嘘宣言をしました。 なので、諦めては離れてくださると嬉しいのですが……上手くいきますかね》 どうやら中庭を見ているだろう、"つけ文"を渡した使用人達に聞こえるようにも、当て付けがましく言った面もある様で、客人が伸ばしていた手に、ロックが恭しく細剣をしっかりと手渡します。 (お心遣い有難うございます。それでは"念押し"もしておきましょう) アングレカムが慣れた様子で、背面に潜め仕込ませてある鞘に細剣をしまったのを確認してから、執事は大きく腹に息を吸い込みました。 『それでは、旦那様、グロー様を連れて先に奥様がお待ちになっているお部屋にお客様と先に行ってください。私は、清掃道具をもってからに部屋に伺います。それと―――』
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