昔話  兵(つわもの)の掘る穴ー真実その6ー

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《申し訳ありません、恐らくはさっきのグロリオーサの"無理な抉じ開け"で……》 はぁああああぁ、という大変悩ましげな溜め息を、(テレパシー)で聞くという、珍しい体験に執事はとりあえず開いていた口を閉じます。 ロックが呆れながらも、態度を軟化させたのを察したアングレカムは(テレパシー)で言葉は続けました。 《どうやら"音"が大きかった為に、魔術に関して才能が乏しい方でも、こちらの騒ぎに気がつかれてしまったようですね。で、お恥ずかしい限りですが、身の潔白の為にしたこの格好が仇になったみたいです》 そう言ってから、アングレカムは左手に掴んでいたシャツに袖を通して、取り合えず露出していた肌を隠したその瞬間に、微かにざわめく気配には、屋敷の執事であるロックが溜め息をつきたくなります。 (でも、ここで私が表情を動かしてはアングレカム様の振る舞いが無駄になる) そのアングレカムは袖を通した後に、胸元のボタンがついたポケットの辺りを何かを確かめるように撫でた直後、また僅かな時間ではありますが、冷酷そうに務める顔表情を緩めます。 その緩めた褐色の顔に、とても優しい美丈夫の顔を、正面にいるロックだけが垣間見ることが出来ました。 (――さて、私が"とても嫌な人物"だと、出来れば上手く、このお屋敷の女性の方々に印象付けたいのですが) 改めて冷たく執事を見据える表情を浮かべるアングレカムが、少しだけ緑の瞳を動かします。 ロックも瞳だけ動かして、自分が把握できるだけでも見ることの出来る"中庭"を覗ける"隙間"が数ヵ所あったのが確認できました。 (あれだけ大きな音を出したのだから、中庭に注目を集めてしまったのは、私たちの自業自得ではあるんですけれどね) 美丈夫な客人が"シャツを羽織る"という動作をした事で、窓辺ならカーテンが動き、中庭に通じる扉も微かに開いた所を見れば、相当な数の使用人が見ている事になります。 『アングレ……、アルセン、そんなに怒らないでくれよ。領主殿の奥方殿が、驚いている』 顔面に絵本を貼り付かせたままの状態で、グロリオーサが明瞭な発音をした事に執事は驚き、アングレカムの肩越しに賓客を見つめました。 『―――それにしても相変わらず、コントロールがいいなぁ』 ロックが見つめた先で、絵本を横にずらしてグロリオーサが顔を出します。 (ああ、んだ)
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