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まだ冬の面影が残っているのか、日はすっかり沈み、辺りは暗くなって肌寒さを感じさせるようになってきた。
寮に着き、玄関のドアを開けるとラウンジに美鶴が座っていた。
何か分厚い本を読んでいたが、空が帰ってきたのでそちらに目を向けた。
「緋山か。おかえり」
「はい、お疲れ様です」
事務的な会話を済まし、空は美鶴の向かいのソファに腰をおろした。テレビからは全国で桜が開花し、来週頃がピークだというニュースが流れている。
そのニュースを聞いてかは分からないが、美鶴が口を開いた。
「最近は物騒になってきている。夜に外を出歩くのは控えてほしい。それより今日は色々あって疲れただろう。ゆっくりと休んでくれ」
「分かりました。では、先に失礼します」
そう言って空は立ち上がった。
「ああ。体調を崩すなよ」
美鶴の声を聞き、空は階段へと向かった。
その途中、食卓にゆかりがいるのを発見した。ゆかりも空に気づいたようだった。
「あ、こんばんわ。何してるの?」
「もう休もうと思って。そういう君は?」
「いや、なんかヒマだなって…… そういえば、じゅんぺーにちゃんと説明してくれた?」
「ああ、順平も誤解してたって分かってくれたよ。」
正確には空は何も説明していないのだが、分かってくれたことは確かなのであえて言わなかった。
「そう… ならいいんだけど…。あ、休むとこだったんだよね。転校したてで疲れてるでしょ? ごめんね、引き留めて」
「いいよ。それじゃ、また明日」
そう言ってコツコツと足音を響かせながら、空は階段を上がった。
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