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「到着が遅れたようだね。」
ラウンジのソファに腰を掛け、紅い髪の少女は言った。
「私は、桐条美鶴。この寮に住んでいる者だ。」
ここで、初めて空は口を開いた。
低く響くが、どこか暖かみを感じさせる声だ。
「俺は緋山空といいます。」
言葉少なげにそう言った。
「…誰ですか?」
茶髪の少女が美鶴に問いかけた。
どうやら事情を説明されていないようだ。
「彼は“転入生”だ。
ここへの入寮が急に決まってね… いずれ、男子寮への割り当てが正式にされるだろう。」
空にしてもそれは初耳だった。
急遽決まったこともそうだが、ここは女子寮なのだろうか。
「…いいんですか?」
「…さぁな。」
二人は意味ありげな会話を続ける。
「彼女は、岳羽ゆかり。
この春から2年生だから、君と同じだな。」
茶髪チョーカーの少女は空と同じ学年だったようだ。
彼女は言葉少なげにつぶやいた。
「…岳羽です。」
空はここに到着するまでに数々の疑問を抱いていた。
話も一段落つき、質問するにはいい機会だった。
「よろしく。ところで、ここって…女子寮?」
空は、なぜその質問と自分でも思ったが、銃を持っていたことや、さっきまでの異様な雰囲気のことはどうやら隠したい内容のようだと察した。
だから、聞かないことにしたのだ。
そこで、不意に先程の会話で生じたささやかな疑問を口にしてしまったのだろう。
「そういう訳じゃないですけど…」
ゆかりという少女は困惑気味だ。
この質問も聞いてはいけない内容だったのだろうか。
「何ていうか…」
戸惑うゆかりをみて、美鶴という少女が助け舟を出す。
「ここだけは例外なんだ。
他の寮は、男子と女子が分かれている。
事情は、機会があれば話そう。」
恐らく、語られる機会はないだろうと、空は予感した。
それほど、秘密にしたい内容なのだと悟ったのだ。
「今日はもう遅い。部屋は、2階の一番奥に用意してある。荷物も届いているはずだ。すぐに休むといい。」
「あ、じゃ、案内するんで、ついてきてください。」
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