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「その昔、新たなる種族の誕生を促してしまったんですよ」
それは余りに突拍子もない話であった。
「現在の人種族は数世紀の年月を経る事で、多少の変遷がありました」
「変遷?」
ユートが首を傾げる。
「はい」
例えば、人馬族(ケンタウルス)と呼ばれる種族が昔は存在していた。
だが、現在は人馬族(ケンタウルス)は一人も居なくなっている。
理由は簡単で、今は暗黒大陸と呼んでいる地の一つに人馬族(ケンタウルス)は主に暮らしていた。
その暗黒大陸の一角に、新しい種族が現れて彼らを蹂躙し、滅ぼしてしまったのである。
「そんな……一つの種族を滅ぼしたってのか?」
「そうです。しかも、それは霊人族の愚かさが招いてしまった事態でした」
「え? そんな話だったっけ?」
シーナは目をパチクリと瞬いて記憶を探るが、習った歴史と異なっているのを再確認しただけだ。
「シーナさん、貴女が識る伝承と真実は別なんです。人馬族(ケンタウルス)を滅亡へと導き、少ないながら人種族の一つとして暗黒大陸を席巻する彼らは、元・霊人族です」
「「は?」」
シーナはその種族については既知であったが、それが元は霊人族だという話は初耳であった。
「この事は、今や各国首脳でさえ失伝により知らない真実ですよ」
「それじゃあ、クリスは何で失伝した筈の話を知っているんだ?」
ユートに訊ねられると、クリスは薄ら笑いを浮かべながら……
「それはまだ秘密ですよ」
可愛らしく片目を瞑り、右人差し指を口元に添えて言った。
「ただ、彼らの発生のメカニズムは教えますけど」
クリスは、『内緒ですよ?』と言って話し始める。
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