853人が本棚に入れています
本棚に追加
強引にでも婚姻届を出していたら……
後悔は日ごと募るのに、どうすることも出来ない現実。
今夜も、隣の男に微笑みながら、周りの奴らにも穏やかな顔で話す奈央を、遠くから見るしかなかった。
華やかなパーティーの中でさえ、奈央の美しさは際立っている。
そんな奈央を、やらしい目で見る男連中。
出来ることなら、ひとりひとりぶん殴ってやりたい衝動に駆られる。
やがて、俺の横を通り過ぎ、視線を僅かにしか合わせなかった奈央の後ろ姿を、俺は黙って見送った。
今の俺には、まともに目も合わせないんだな。
あの笑顔は、俺の一番近くにあるはずだったのに……。
他の男に見せんじゃねぇよ!
波立つ感情がどす黒さを持ち、とめどなく溢れ出てくるのをせき止められない。
「もういいだろ。俺は帰る」
呆れ顔の第一秘書に告げ、足早に会場を後にした。
無理だった。
奈央のあんな姿を見て、平然となんてしていられなかった。
車を呼び寄せ乗り込むと、ジャケットを脱ぎ捨て、携帯を取り出す。
“今夜、マンションに来い”
短いメールだけ打つと、すぐさま電源を落とす。
こんな夜は、一人でいたくはない。
奈央との思い出が詰まった、あんなだだっ広い部屋に一人では……。
そうすることでしか、この苛立ちを抑えられる術を俺は知らない。
最初のコメントを投稿しよう!