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「いてっ!」
クリーンヒットで見事に決まったそれは、遠慮なしに腹に痛みを与える。
腹を抱えうずくまる俺を、腕を組み仁王立ちで見下ろす女。
たった一発で、俺の暴走は形勢逆転された。
「奈央、奈央うるさい!」
「んなホンキで殴んなよ!」
「殴りたくもなるでしょ? 毎回毎回パーティーの度に呼び出されて、文句言いたくても携帯の電源切ってるし! もういい加減にしてよね!」
「だ、だってよ……」
「……」
目を細めて睨み下ろす女に、痛む腹に力を込めて声を出した。
「なんで俺以外の男の隣にいるんだ! 他の男どもにも愛想振りまくなっ!!」
聞こえてきたのは盛大な溜め息と、
「父親にまで妬いてるんじゃないわよ」
もっともな女の返しだった。
そう、俺の前に立つ女は、俺にとって唯一無二の女────奈央だ。
奈央にとっても、それは同じはずだ!
なんせこれでもフィアンセなんだから!
例え、俺を制するために暴力を振るおうとも、これは愛情表現以外のなにものでもない!
そう努めて思い込む俺をよそに、奈央はサッサとリビングへと歩みを進める。
とっくに結婚しててもおかしくないのに……一人ぼやきながら後に続く俺は、新調したばかりのソファーに座った奈央の隣に腰を下ろすと、狂いが生じた二年前を振り返った。
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