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病室の前に立ち、ドアを開けようと手を掛けた時、その動きを止める声が耳に響いた。
『お前が俺のこと、そういう目で見てねぇって解ってる、でも俺は、そういう目で見てる』
「……」
『お前が傍に居てくれたら、俺、負けねぇ気がする』
手が。
するりと落ちた。
谷口の気持ちは知っていた。
多分、いい加減なものではないということも。
それでも彼女の周りに居る事を黙認していたのは。
俺の存在だけで、その想いを止める事など出来るはずもないと感じたから。
人の想い程、誰かに言われて動ける簡単なものではないのだと、俺自身が知っていたから。
『わ、私は、先輩が』
『言うなよ、今、言うな。
もう少し、俺の気持ち……持っててくれ。
わりぃけど』
谷口が、卑劣な手を使って彼女を奪うとは思わない。
だが今の彼の探す拠り所が、彼女だけなのだとしたら。
聖ちゃんは。
彼女は。
その訴えを、どう受け止めるのだろう。
『お前が、支えてくれねぇか』
その言葉を最後に。
俺は目の前のドアから……踵を反した。
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