成宮side

3/147
1287人が本棚に入れています
本棚に追加
/1458ページ
病室の前に立ち、ドアを開けようと手を掛けた時、その動きを止める声が耳に響いた。 『お前が俺のこと、そういう目で見てねぇって解ってる、でも俺は、そういう目で見てる』 「……」 『お前が傍に居てくれたら、俺、負けねぇ気がする』 手が。 するりと落ちた。 谷口の気持ちは知っていた。 多分、いい加減なものではないということも。 それでも彼女の周りに居る事を黙認していたのは。 俺の存在だけで、その想いを止める事など出来るはずもないと感じたから。 人の想い程、誰かに言われて動ける簡単なものではないのだと、俺自身が知っていたから。 『わ、私は、先輩が』 『言うなよ、今、言うな。 もう少し、俺の気持ち……持っててくれ。 わりぃけど』 谷口が、卑劣な手を使って彼女を奪うとは思わない。 だが今の彼の探す拠り所が、彼女だけなのだとしたら。 聖ちゃんは。 彼女は。 その訴えを、どう受け止めるのだろう。 『お前が、支えてくれねぇか』 その言葉を最後に。 俺は目の前のドアから……踵を反した。
/1458ページ

最初のコメントを投稿しよう!