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カラン、と冷水の氷が音を立てて崩れた。
焼け付くようだった昼間とは打って代わり、日が落ちた縁側は夜特有のヒヤリとした外気が通り、とても心地がよい。
「…………」
縁側に座り、贅沢な庭園の池を眺めながら俺は納涼をしていた。
月が綺麗だな……
漫然と上空を見上げる。
満月とは違うが、あと数日もあれば満月になるだろう月は完璧な丸とは言いがたかったが、何故だかそれも風情がある。
僅かに欠けた月を見上げ、
「……ふぅ」
とさ、と身体を横たえた。外気と同じくひんやりとした縁側が薄い着流し越しに肌に涼をもたらす。あぁ、気持ちいい……
左腕を下敷きにしたまま、世辞にも柔らかいとは言い難い木の縁側に足も載せる。
多少下敷きにした左腕が痛まないこともないが、そこまでの痛みではないので気にせずにささやかな月見を再開する。
今から数時間前、俺は朔夜に敗北した。
焦り、混乱した思考が身体を縛り付け、更に焦る……そんな悪循環を繰り返す俺では、朔夜に到底歯が立たなかった。
簡単なフェイントに引っ掛かり、安易に間合いを詰めた途端に足を掬われ、後ろ手に関節を極められるという無様な敗北だった。
……そう、敗北だった。
眺めていた月から目を離し、視線を下方向へとさ迷わせる。
俺は、師範の……父さんの前で無様に敗北してしまったのだ。
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