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柔らかな木材と乾いた畳の匂い、そして人の汗の匂いが混じった、独特の匂い。
くんっと嗅げば、俺の大嫌いなその匂いは鼻孔を擽り、体内へと吸収されていった。
「…………」
無言で、顔を顰める。何故だか、道場に来る度につい行ってしまうこの行為は今では習慣となりかけていた。
俺は何をしたいのだろうか?
わざわざ不快になることをしてしまう自分に、苛立ちを覚える。
物心がつく前より以前から毎日訪れている道場に、いつまでも馴染めない感覚。
馴染まないといつまでも己が辛いだけなのに、嫌悪を覚える度に己の中で異物感が浮き彫りになる。
…………馴染みたく、ないのか?
ふと頭の中で小さな声がした気配。
だが、俺はその気配を掴む事もせずに振り払おうと、頭を振った。
そんなことをして、何になる。
何も変わらないではないか。むしろ、辛くなるだけだ。
もう一度強めに頭を振る。
くらり、と一瞬目眩のような感覚。そしてそれを境に俺は余計な思考を振り払った。
こうして、今日もいつまでも馴染めない鍛練が始まった。
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