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月の綺麗な晩だった。
名門と謳われる彩七家の中でもその名を轟かせる゙紅家″の当主、紅黎深も縁側に腰を下ろして眺めていた。
「……早いものだ。あの娘も年を越せば八つ歳になるのか」
目を伏せれば美麗と謳われるその顔にも影がおちる。手に握る扇には、鮮やかな桜が描かれていた。そのままゆるむ口元を隠すために扇をとじて口
にあてる。決して高価とは言えないそれは、しかし彼にとっては金五百両よりも価値のあるものだった。
「黎悧……」
酒は飲んでいなかったが、彼はその名だけで酔ってしまえそうなほどその名を持つ少女に心を寄せていた。敬愛する彼の兄の大切な末姫にして自身の名を一字預けた幼子。
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