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「霧山くんは、少し席を外してくれない?」
「…え、ええ。分かりました」
彰弥くんはすぐに応えると、来た道を戻っていった足音が聞こえた。
背中を向けてるから分からないけど、私と前川さんしか…ここにいない。
私は少し、心の中で安心した。
それは、さっき前川さんが彰弥くんのことを『霧山くん』と呼んだこと。
いきなり名前呼びじゃなくて良かった…―なんて、柄にもなく思ってしまった。
名前で呼ばれたら、2人の距離が一気に近付いたみたいで何か嫌だった。
「となりに座っていい?」
座って下を向いていると、不意に顔が覗き込まれ、少し目を開き驚いた。
「…うん、どうぞ」
素っ気なく言ってしまう自分が嫌だ。
でも、前川さんはきっとこれから幸せが待っているんだから、別にいいじゃないか。
最後くらい冷たくしたって…。
最後くらい、気を遣わなくたって…ありのままの自分で。
「…さっきの聞こえてたでしょ?」
前川さんがぽつりと言葉を漏らすから、私はすかさず「何を?」と聞き返した。
「…霧山くんの言葉」
「彰弥くんの言葉…?」
私がようやく顔を上げ、前川さんを見ると、前川さんは微笑みながらも目に涙を溜めていた。
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