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「…嫌な思い出を、消してくれたんだもの。
ありがとう、二階堂さん」
大きな瞳からは、憎しみの気持ちじゃなくて、優しさで包まれるような温かい気持ちが伝わった。
私がしてきたのは、前川さんの気持ちを踏みにじるようなことだったと、私は思う。
彼女がなんで目の前で、こうも清々しい笑顔を見せてくれているのか分からない。
でも、私が酷いと思っていたことが、彼女にとって良い方に持っていけたのなら、それはそれで良かったのかもしれない。
自分が言ってしまった発言が未だに許せないけど、今…目の前のこの子が笑ってくれるんなら…それでいいとしよう。
「私も。ありがとう、前川さん…」
「お礼を言い合うって、照れくさいね」
「そうだね」
前川さんとそう言って、笑った。
私と前川さんの目尻には、涙の痕が残っていたけど、気持ちは本当に晴れ晴れとした。
「……じゃあ、あたしはそろそろ帰るわね」
前川さんは、急にスッと立ち上がった。
「え?なんで…」
「なんで…って決まってるでしょう。二階堂さん、あなたの彼が待ってるのよ?
早く会いに行ってあげたら?」
前川さんの言葉にゴクッと生唾を呑んだ。
そうだ、うっかり…。
「ご、ごめ…」
「ちょっと待って。謝るの禁止ね。あなた、謝りすぎ。今度会う時までに、その謝り癖治してきてね」
前川さんはピッと私に人差し指をさし、ニコッと笑った。
今度会う時まで……?
また、会えるんだ。
「う、うん!分かった!」
私がそう返事をすると、前川さんは何も言わず私の目の前から去っていった。
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