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彰弥くんを長い間待たせたくなくて無理して走ったのは、ちょっと身体に悪かったかもしれない。
バレないように息を整えていると、ソファに座っていた彰弥くんが「さて…」と言って立ち上がった。
「え?どうしたの?トイレ?」
私がそう言うと彰弥くんは、少し顔をしかめる。
図星…?
「違います。もう行きますか」
「え?なんで?
もう少しゆっくりして行けばいいのに」
せっかく家に来たんだから、お茶くらい出してあげたい。
って言ってもペットボトルに入ってるお茶だけど。
私の言葉に、彰弥くんは今度は困ったような顔をする。
「…いえ、結構です。今、タクシー呼びますから」
彰弥くんは携帯を取り出し、耳に当てた。
タクシーに電話しているんだ。
なんでだろう…、私はもう少し居て欲しいのに……。
私の家嫌いなのかな?
もしかして匂うのかな?
彰弥くんがタクシーの運転手さんと話している間、自分の鼻をフンフンと利かせたけど、そんなに嫌な匂いはしない…と思いたい。
「蓮華、行きますよ」
「…う、うん」
電話が終わった彰弥くんに腕を引かれ、あっさりと自宅を出た。
「…彰弥くん、まだタクシー来ないんじゃないかな?」
電話をかけて、すぐに外に出てもタクシーはそんなすぐさま来るわけがない。
私の言葉に彰弥くんは「そうですね」と笑った。
なんで?なぜ?
どうして、そんなに私の家に居たくないの?
頭の中にいる複数の私が、同時に首を傾げているのが分かる。
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