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「…ふふ、懐かしいです。小学生の頃の夏休みの工作で、千羽鶴を折ったことを思い出します」
「なんか負けた気持ちになるから、そういう癒され方はヤメてくれないかな…」
小学生の頃の彰弥くんは千羽鶴。社会人の私は百羽鶴。
……何なんだろうか、この敗北感。
「…すみません。でも、とても嬉しいですよ」
百羽鶴を自分の目の前にかざし、彰弥くんは笑う。
その表情に私も癒されて、彰弥くんに自分が作ったクッキーを勧めた。
「これも食べて食べて!美味しそうでしょ!?」
ウサギの形やネコの形をしたクッキー。
彰弥くんの更に喜んだ顔が見たくて、私は調子に乗った。
「美味しそうですね。
では、いただきます」
彰弥くんがネコの形のクッキーを摘み、一口パクッと食べる。
私はその瞬間を浮き立つような気持ちで見つめた。
そう、私は調子に乗っていた。
「…………………う゛っ……」
彰弥くんは突如口を押さえ込み、前屈みの体勢になった。
「彰弥くん!?どうしたの?美味しくて驚きすぎたのかな?」
そう、私はこの時実に調子に乗っていた。
「…れ、蓮華……、クッキーに何を…入れたんですか?」
口元を隠し、涙目で私を見る彰弥くん。
私はパチパチと2回瞬きを繰り返し、何を入れたか思い出す。
「変なものは入れてないよ?えーと、隠し味にチョコレートと胡椒、七味を入れたくらいかな」
「明らかに2種類ほど、有り得ない材料が入ってたことに気付いてますか」
「?」
そう、私はこの時世界一調子に乗っていたのだ。
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