*+。良かったねって。+*

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扉の隙間から見える二人は、どこからどう見ても唇と唇を重ね合っている。 「…どうして…?」 そう呟いたと同時に涙がぼろぼろと零れ落ちてくる。 早乙女くんから話は聞いてたけど…。 最初は、浮気する人の気持ちを知りたいからしたんだと思うって言ってた。 でも…二回目は…? 二回目のキスはどういうつもりでしたの…? とりあえず、彰弥くんに聞かないと…。でも、なんて言って聞いたらいいか分からない。 言葉よりも涙が止まらない。 頭が回らない。 「おい!しょーや!佐山!何やってんだよ!?」 私が声を出す前に、後ろから荒々しい言葉が飛んできた。 振り向くと、早乙女くんだ。最初見た表情とは、真逆の顔にビックリする。 早乙女くんは、ずんずん前に進み、部屋の中に入っていった。 彰弥くんと佐山さんは、早乙女くんの声で私たちが居ることに気付いた。 二人は、すぐさま近かった身体を離し、距離を置く。 「どういうことだよ!」 早乙女くんの怒鳴りに、佐山さんは気まずそうに下を向いている。 彰弥くんは…怖くて見れなかった。 「なぁ?彰弥、彼女いんだぞ!?分かってんの?」 「…………」 早乙女くんが佐山さんに詰め寄り、かなり責め立てている。 佐山さんは、早乙女くんから顔を逸らし…何も喋らない。 …私は、どうすればいい…? 早乙女くんみたいに出来ない。 怖い…。彰弥くんを責めたとして、もし…別れ話を持ち出されたら…? 開き直られたら…? 彰弥くんのことは、他の人よりは分かってるつもり。そんなことはしないって分かってる。 今のだって、何か理由があるに違いないって思う。 でも、そのもしものことを考えると…何も言えない。 「…あ、蓮華…」 俯いて考えていると、戸惑ったような彰弥くんの声が耳に入る。 駄目だ…聞けない。 怖くて、話せない。 逃げたい。走って逃げたい。 でも、そんな力…出てこない。 足が震えて…無理だ。  
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