*+。良かったねって。+*

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受け入れたくない。何も聞きたくない。何も知りたくない。 浮気しないんじゃなかったの…? 『蓮華』 あの優しい声で、いつも私に笑いかけてくれた。 悲しい時も辛い時も、嬉しい時だって、私の名前を呼んでくれた。 私の傍にいた彰弥くんは、もうあの頃の彰弥くんじゃなくて…他の子の名前も呼ぶようになったんだね。 「ううぅ…止まれよぉ…涙…」 目元を必死に擦ってみるけど、涙の量は増えるばかりで止まるということを知らないみたいだ。 なんで楽しい旅行のはずが、泣かなきゃいけないんだろうか? 私は、ただ彰弥くんと一緒に居たいだけなのに。 「止まってってばぁ…」 「そうですね、泣き止んでもらわないと大切な話が出来ませんから」 「………!!?」 後ろから急に声が聞こえて振り向くと、彰弥くんが立っていた。 「な…!!」 驚きで間の抜けた言葉しか出てこなかったけど、涙はあっさり止まった。 大切な話…? 大切な話って、なに? もしかして…別れ…話…? 「き…」 「き…?」 「聞きたくない…!!いいよ!言わなくていいよ! 言わなくていいから、もう…私を苦しめることは言わないで…」 耳を塞ぎ、大きな声で彰弥くんに言うけど、次第に声が小さくなってしまう。 私の言葉を聞いた彰弥くんは…溜め息を吐いた。 その溜め息に更に肩が揺れる。 どうしよう…呆れられた…。 彰弥くんが呆れる顔を見たくなくて、背中を向けた。 話も聞こうとしないのは悪いって、分かってる。 分かってるけど…でも…どうしても耳を塞ぎたくなるんだ。 「…蓮華。俺に失望したのも分かります」 「…ち、違う。 し、失望はしてない…。してないけど…」 あの光景がまた頭の中に浮かぶ。 思い出したくもないのに、鮮明に私の脳裏に焼き付いてる。 消えて欲しいのに、私の頭の中ではその場面が何度も何度も再生されている。 「……彰弥くんのこと、信じたいよ…。信じたいけど…目の前であんなの見たら…私…」 信用できなくなっちゃうよ…。    
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