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「あ…あの、佐山さん。暴力的なことはしないから、そんなにビクビクしないで」
佐山さんを見ると、私から目を逸らしながら怯えている。
「……あ、あたし…ごめんなさい…。その別に霧山くんのことが好きってわけじゃなくて…。かと言って、嫌いってわけでもないんだけど」
しどろもどろに言う佐山さんは、私に責められると思ったのか泣きそうな顔をしていた。
綺麗な切れ長の瞳からは、今にも透き通った雫が零れ落ちそうになっている。
「さ、佐山さん!私は別に怒ってなんかいないよ!」
綺麗な人を泣かすかと思うと、さすがに胸が痛む。
慌てて佐山さんの涙を止めようと、身振り手振りで涙が出ないように気を引こうとした。
「う、うそ…怒ってるでしょ…?だって、本当はあたしからキスしたんだよ…?自分の彼氏に他の子がキスしたら腹立たない?」
「だったら、なんでしたのか理由を教えて欲しい。腹が立つって分かっててしたのなら、なんでしたの?」
珍しく冷静に問いかけることが出来た。
多分、佐山さんが彰弥くんを好きだと思っていたら、こんな冷静じゃいられないだろう。
しばし沈黙が続いた後、佐山さんがポツリと小さく答えた。
「…………貴方が霧山くんとケンカすると思ったから」
…やっぱり彰弥くんが好きでこんなことしたの…!?
一瞬、それが頭に過ったけど…彰弥くんがあんなに自信を持って言ってたんだ。彰弥くんを信じよう。
佐山さんは早乙女くんが好き。
佐山さんは早乙女くんが好き。
目を閉じて、頭の中に言い聞かせ、また佐山さんを見つめた。
「なんでケンカして欲しかったの?」
「……………」
その私の質問に佐山さんは言いづらそうに目を伏せた。
この質問で全部が分かるって言っても過言ではないのに、佐山さんは一向に口を割ろうとしない。
理由を聞きたいだけなのに、そんな言いづらい不純な動機なんだろうか…。
「…何を言っても怒らないから、教えて。お願い…」
というより、怒る勇気がないだけだけど。
頭を下げてお願いすると、佐山さんは少し自分を落ち着かせるように深く息を吸った。
そして、意を固めたのか口を開いた。
「貴方と霧山くんがケンカしてくれたら…早乙女くんが喜ぶから…」
目尻に涙を溜める彼女を見て、彰弥くんが言ったことは当たっていたと気付いた。
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