*+。良かったねって。+*

16/26
前へ
/430ページ
次へ
「あ…あの、佐山さん。暴力的なことはしないから、そんなにビクビクしないで」 佐山さんを見ると、私から目を逸らしながら怯えている。 「……あ、あたし…ごめんなさい…。その別に霧山くんのことが好きってわけじゃなくて…。かと言って、嫌いってわけでもないんだけど」 しどろもどろに言う佐山さんは、私に責められると思ったのか泣きそうな顔をしていた。 綺麗な切れ長の瞳からは、今にも透き通った雫が零れ落ちそうになっている。 「さ、佐山さん!私は別に怒ってなんかいないよ!」 綺麗な人を泣かすかと思うと、さすがに胸が痛む。 慌てて佐山さんの涙を止めようと、身振り手振りで涙が出ないように気を引こうとした。 「う、うそ…怒ってるでしょ…?だって、本当はあたしからキスしたんだよ…?自分の彼氏に他の子がキスしたら腹立たない?」 「だったら、なんでしたのか理由を教えて欲しい。腹が立つって分かっててしたのなら、なんでしたの?」 珍しく冷静に問いかけることが出来た。 多分、佐山さんが彰弥くんを好きだと思っていたら、こんな冷静じゃいられないだろう。 しばし沈黙が続いた後、佐山さんがポツリと小さく答えた。 「…………貴方が霧山くんとケンカすると思ったから」 …やっぱり彰弥くんが好きでこんなことしたの…!? 一瞬、それが頭に過ったけど…彰弥くんがあんなに自信を持って言ってたんだ。彰弥くんを信じよう。 佐山さんは早乙女くんが好き。 佐山さんは早乙女くんが好き。 目を閉じて、頭の中に言い聞かせ、また佐山さんを見つめた。 「なんでケンカして欲しかったの?」 「……………」 その私の質問に佐山さんは言いづらそうに目を伏せた。 この質問で全部が分かるって言っても過言ではないのに、佐山さんは一向に口を割ろうとしない。 理由を聞きたいだけなのに、そんな言いづらい不純な動機なんだろうか…。 「…何を言っても怒らないから、教えて。お願い…」 というより、怒る勇気がないだけだけど。 頭を下げてお願いすると、佐山さんは少し自分を落ち着かせるように深く息を吸った。 そして、意を固めたのか口を開いた。 「貴方と霧山くんがケンカしてくれたら…早乙女くんが喜ぶから…」 目尻に涙を溜める彼女を見て、彰弥くんが言ったことは当たっていたと気付いた。  
/430ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2795人が本棚に入れています
本棚に追加