*+。良かったねって。+*

20/26
前へ
/430ページ
次へ
「…え?なに?」 佐山さんは本当に具合が悪そうな顔をしている。 「ちょっと話があるんだけど」 早乙女くんが真っすぐに佐山さんを見つめて言うと、「む、無理!無理無理!あたしは無いよ!」とすごく焦って言う佐山さん。 が、がんばれ!佐山さん! 声には出せない気持ちを顔全面で表現していると、「お前は何やってんの?」と早乙女くんに冷たい眼差しを向けられた。 「い、いや。別に…」 佐山さんの逃げたくなる気持ちは痛いくらい分かる。しかも相手が早乙女くんだとすると、どんなことを言われるのか予測できない。 目を右往左往と泳がしていると、奥から彰弥くんが手招きをしている姿が見えた。 その姿を見たと同時に彰弥くん側の方へ向かう。 「う、裏切者…!」 佐山さんの情けない声が背後から聞こえるけど、これも佐山さんの為だ。 「大丈夫」 振り返り、根拠もないことを佐山さんに投げかけると、佐山さんはかなり参った表情をしていて、また泣き出しそうだった。 「では、俺たちは出て行きますので。佐山さん、早乙女くんとゆっくりお話しして下さいね」 朗らかに笑う彰弥くん。だけど、笑った顔がちょっと怖いかも。 「き、霧山くん…!本当はさっきのこと怒ってるんじゃないの…!?」 佐山さんが目の淵に涙を溜めていた。 さっきのこと…? 彰弥くんを見つめると、やっぱりいつもとは違う笑顔で。 「とんでもない。怒っていませんよ。俺は親切心の塊でしかありませんから。 思いの丈を早乙女くんにゆっくり且つ丁寧に伝えてください。 俺と蓮華は、失礼しますので」 彰弥くんはそういうと私の手を引いて、廊下に出て、パタン…と部屋の扉を閉めた。 部屋の中には早乙女くんと佐山さんの二人っきり。 廊下には私と彰弥くんの二人っきり。 「佐山さん、大丈夫かな…?」 私、中途半端で出てきちゃったな…。 扉を見て、佐山さんを心配していると、頭にポンと何かが乗った。 「大丈夫ですよ。早乙女くんは少しばかり短気ですが、優しい人ですから」 彰弥くんの手が私の頭の上をナデナデと往復している。 「うん…」 それだけで少し落ち着くことが出来たけど…。 佐山さん、素直になって…。 彰弥くんと部屋から離れ、旅館内を回ることにした。  
/430ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2795人が本棚に入れています
本棚に追加