2795人が本棚に入れています
本棚に追加
―亜紀side-
『あたちの夢。あたちの夢はっ、お嫁さんになることですっ!』
短い髪を少しでも女の子らしくしたくて、無理矢理二つに結ってもらった髪。
その髪を誇らしげに幼稚園で見せつけ、私は大恥をかいたことを今でも覚えている。
幼稚園の発表会。テーマは、【未来の自分】
未来の自分を思い描いて、楽しく発表する会だった。
一種の行事というもので、会館を貸し切って幼稚園の先生や自分の親を招待して発表する…。
今となっては、つまらないものだった。
でも幼稚園児の私は、妙に一人で張り切って…発表会の日には少しでも可愛く見せたくて、自分のショートカットの髪を二つに結ってくれとワガママをいう始末。
しかも、周りから見たらその無理矢理してもらった髪型は…お世辞を言えないくらい可愛くない。
パパとママは、そんな見てくれだった私を当日見ることも無く仕事に向かってしまった。
しかも災難なことに、妹の麻紀は風邪でノックダウン。病院に行くことになってしまった。
『パパとママ来てくれないんだぁ…。麻紀もいないし…』
気合を入れた髪型もヘニャッと下がる。
お家で働いてくれる人は、家事や書類整理があって忙しくて見に来れないと言う。
じゃあ、誰の為に発表すればいいの…?
大好きな人たちに聞いてほしくて、発表するのに。
瞳からは、涙が零れそうになる。
そんな私を見て、お手伝いさんたちは困ったように首を捻った。
『そうね。誰か行ける人いないかしら?』
『このままじゃ、亜紀様が可哀想だわ』
お手伝いさんたちが悩んでいると、間から弱弱しい少年の声が聞こえた。
『あの…僕…行きましょうか…?』
男の子なのに細い身体を無理矢理前に進め、お手伝いさんたちの間に小さく顔を出した。
『しんちゃん…!』
嬉しくて嬉しくて、しんちゃんに抱き着いた。
『亜紀ちゃん、僕が行くから発表頑張ってね』
しんちゃんは優しく笑って、私の頭を撫でてくれた。
『うん!うん!がんばるっ!』
本当はパパやママが見に来てくれるより、いつも遊んでくれるしんちゃんが来てくれる方が嬉しかった。
この髪も、しんちゃんに見て欲しかったから。
かわいい って言って欲しかったから。
だけど、幼い私の気持ちはあっという間に壊された。
最初のコメントを投稿しよう!