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「晋太郎さん…?」
もう一回名前を呼べば、
「はい、どうなさいました?」
返事をしてくれる。
いきなりのことで私の思考回路は、バカみたいに働かなくて…ただ会えたことが嬉しくて…思いっきり目の前の彼に抱き着いてしまっていた。
「…え!?お、お嬢様?」
彼の不意をついたのか、晋太郎さんの声は上擦っていて…慌てていた。
晋太郎さん…温かい…。
なんて晋太郎さんに触れて喜びを味わいたかったけど、
「って、あれ?…晋太郎さん、なんで濡れて…?」
晋太郎さんは濡れていた。
温かいなんて一瞬思ってしまったけど、思い込みだったみたいで実際はすごく濡れていて冷たい。
バッと晋太郎さんから少し身を離すと、晋太郎さんは困ったように頭を片手で掻いていた。
「あ、すみません。お嬢様がまだ帰ってきていないと聞いて、慌てて家を出てきてしまって」
もしかして……雨降ってるのに、傘をさすのも忘れていたの?
「ご安心してください。車でお迎えに上がりましたので、今こっちに寄せますので…ここで少しお待ちください」
晋太郎さんはもうお仕事をお休みモードになっていたのか私服だった。
半袖の私に、躊躇なく自分が羽織っていたパーカーを優しく被せてくれた。
「パーカー、びしょびしょ…」
「あ、すみません!!そうだ、傘さしてないからパーカーも濡れてますよね!
すみません…俺、焦ってて……本当すみません…」
私の言葉を聞いて、珍しく慌てる晋太郎さん。
というより、何回謝ってるのかな…。
「こんなの、まだ無い方がいいですよね」
私に被せていたパーカーに、手を伸ばした晋太郎さんの手を…両手で掴んだ。
「え…?お嬢様?」
「…ありがとう。
自分が濡れること忘れてまで、探してくれたのね」
晋太郎さんの手は、私の手よりも冷たかった。
自分の頬に、晋太郎さんの手を当てる。
私、今相当恥ずかしい。
この頬の熱が、晋太郎さんの手を少しでも温めてくれたらいいんだけれど。
ゆっくり目を閉じて、今の私にはちょうど良い晋太郎さんの冷たい手の感触を心地よく思った。
ずっと…このままが良いけど……。…そろそろ帰らないと…。
名残惜しく思いながら、目を開けた瞬間
「……!!!?」
晋太郎さんの顔がかなり近かった。
そして、額に柔らかい感触。
これって…-!!?
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