もう届かない過去

2/19
前へ
/430ページ
次へ
彰弥くんに別れを切り出した次の日。 最近の私には珍しいくらい清々しい日で、心なんかもう・・・すっきりしたような気がした。 もしかしたら、からっぽになっただけかもしれないけど、気持ちは一応落ち着いている。 「蓮華ー!おはよう!もう起きてるんでしょー?」 ベッドで寝そべってボーっとしていると、椿の凛とした声が部屋のドア越しから聞こえてくる。 ・・・ああ、今日椿は休みなんだっけ・・・。 それで私も丁度シフト入ってないし・・・だからこんな同じ時間にいるのか・・・。 時計をぼんやりと見ると、針は12時30分近くをさしていた。 「うーん、起きてるよー」 間延びした声を出し、椿に聞こえるように声を出した。 「もうお昼よ。早く起きたらー?」 母親みたいなことを言われ、渋々身体を起き上がらせた。 「聞いてるのー?」 「うん、今起きたー」 目が重い。というか、目蓋が重い。上手く開かないなぁ・・・。 着替えを持って、扉を開けると 「きゃあ!何その顔!どうしたの?」 椿がまだドアの前に居て、私の顔を見た途端にいつも以上に目を大きくさせた。 「え?ああ、ちょっと・・・」 「大丈夫なの?見てると痛そうよ」 なにが?昨日別に転んだつもりはないし、誰かに殴られた記憶もない。 よく分からないけど、とりあずシャワーを浴びてスッキリしたい。 「うん、大丈夫大丈夫」 よく分からないけど淡々と返事をし、脱衣所に向かった。 そこの鏡で、やっと椿が驚いていた理由が分かった。 「わー・・・」 そんな言葉しか出ないくらい私の目は腫れていて、顔には引っ掻いた痕がある。 ・・・怖い。一目見た印象は、この一言に限る。 昨日電話を切った後、泣かないように必死に目を擦って。 痛みで悲しみが吹き飛ぶように、顔を無茶苦茶に引っ掻いたんだ・・・。 自分の頬に触れようと手を伸ばしたけど、やめた。 いま、触ったら・・・またあの気持ちが出てきちゃいそうだ。  
/430ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2795人が本棚に入れています
本棚に追加