もう届かない過去

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「大丈夫ですよ。ちょっと寝ぼけて顔ボロボロにしちゃっただけです」 「寝ぼけて、そんな顔になる技術がすごいな」 飲み物を飲み平然と答えると、義貴先輩がジトーッとした目で私を見てきた。 そんな私に椿は溜め息を吐き、「ウソでしょ?昨日の電話で何かあったの?」と優しい声で話しかけてくれた。 心配してくれる椿には悪いけど・・・なかなか人に簡単に言えることじゃない。 眉を寄せて私を見つめてくれる椿には申し訳ないけど、こんなこと私から言いたくないし、言うつもりもない。 ・・・自分から彰弥くんに告げたのに、他の人に言ったら・・・本当にそれを受け止めなくちゃいけない・・・だなんて。 今更、何に怯えているのか自分自身も分からないけど。 「昨日は電話で、この間のことを謝ってくれただけだよ。 後は何も話してないよ!彰弥くん、忙しそうだったから・・・それで終わったよ」 そう笑って言ってみせると、「そう・・・」と椿はバツの悪そうな顔で納得した。義貴先輩も整った顔を少し曇らせたけど、後は何も聞いてこなかった。 「そっか。彰弥が戻ってきたら、みんなでどっか遊びに行くか! いつ戻ってくるとか聞いてるか?」 何だか湿った空気を一気に明るくさせるように義貴先輩が笑って言ってくれる。 もう連絡取らない。 とか もう話せない。 とか言えない。 その場に居るのが居たたまれなくなって、ソファから立ち上がり笑った。 「分からないです。いつ戻ってくるのかもいつ会えるのかも。もしまた連絡来たら、聞いてみますね。私、ちょっとやりたいことがあるので部屋戻りますね」 「おう、分かった。宜しく頼むわ」 私の言葉に義貴先輩と椿は頷いたのを確認し、リビングを出た。 上げていた口角が徐々に下がってくる。 みんなには、別れたこと言えない。 余計な心配かけたくない・・・。 これから新しい自分になるんだ。 私が変わらないと。 強くならないと。 別れた彼に申し訳ない。  
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