もう届かない過去

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きょとんとした蓮華の顔に少し苛立ちを感じながら、「お前なぁ」と言葉を続けた。 「こんな時間に1人で歩くなんて危ないだろ」 「侑弥くんも1人でしょ」 何食わぬ顔でああいえばこう言ってきやがる。 「お前、一応女なんだから少しは気をつけろって言ってんだよ。 とりあえず送っていってやるから」 蓮華の腕を軽く掴むと、また変な違和感を感じた。俺はコイツに大して触れたことは無かったけど、少し・・・細くなった気がしてならない。 「あ・・そうだよね。私、女の子だ。 だから、こんなヒール・・・高いの履いて。 スカート履いて・・・お化粧して・・るんだ・・・」 え!? 俺なんか悪いこと言った!? 俺の言葉を聞いた瞬間、蓮華はまた意味の分からないことを言って、目を潤ませた。 酒のせいなのか・・・?とも思ったけど、表情からは悲しみしか滲み出てきていない。 泣きそうな顔に、掴んでいた腕を慌てて離した。 「わ、悪い!なんかマズイことでも言ったか?」 謝ったけど、蓮華は口を閉ざして小さく首を振った。 「なんか嫌なことでもあったのか?」 少し穏やかな口調で聞いてみると、蓮華は少し間を置き頷いた。 蓮華の性格からして、嫌なことはあまり気にしないように思えたんだけど・・・そうでもないのか? 気にしていたとしても、あまり顔には出さない奴だった。いや、出さないようにしていた奴だから、思いっきり顔に出るのは相当のことがあったのかもしれない。 顔が見えるように屈み、「話くらいだったら聞けるけど?」と言い、続けて「お前がそんな状態だって知ったら、彰弥も心配するしな」と加えた。 彰弥の名前が出たら、少し顔色を変えると思った。 でも、想像していた表情と違う。 《彰弥》の名前を出した瞬間、更に眉を歪めたんだ。 そして更に顔を下に向け、俺に見られないようにした。 「・・・ま、言いたくないならいいや。 じゃあ、帰るか」 「・・・・・うん」 無理に聞けなかった。 きっと聞いちゃいけないことだ。 それに、聞かなくても薄々は分かる。 隣りを無言で歩いている蓮華を横目で見ると、少しだけ伝わる。 ・・・・・強い決意と、ほんの少しの自己嫌悪。  
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