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自分の考え事は後だ。首を振り、携帯の画面に向き直った。
……とりあえず返事を……しよう。
『お久しぶりです。彰弥くんは大丈夫ですか? 早く元気になることを願います』
入力し終わった後、改めて自分の文を見ると……何とも他人事の文になってしまった。メールを受け取ってから何十分も悩んだのに、出来上がったのはあまりにも業務的だ。
でも別れたのに、しつこく聞くのもおかしすぎるし……本当に願うことくらいしか私には出来ないよね。
……そのまま送信を押した。
何度も打っては消した。消しては打った。でも彰弥くんと何かあったのか、という質問にはどうしても答えることが出来なかった。何度打ち直しても、改めて文にすると自分の胸が痛くなって仕方なかった。
これがよくドラマで見る未練がましい女なのかな……。未練がましいって、私が彰弥くんに持ちかけた話なのに……図々しいよね。
ポスンッと送信し終わった携帯を自分の横に置くと、丁度コンコンとドアをノックされて返事をする前に開けられた。
「何やってるの?」
ノックをしてすぐに開けるのは椿以外しかいない。そう思いながらもドアの方を見ると、やはり椿だった。
「ノックした後、返事を聞いてから開けてよ」
そう不満を漏らすと、「ごめんごめん。義貴くんにもやってるから、つい」とヘヘッと笑う。
いや、ヘヘッじゃなくてさ。なんて言い返したかったけど、それを言う気力もなく、流すことにした。でも義貴先輩って、やっぱり優しいんだなぁ。椿のこと本当に好きだから、ああいう風に寛大になれるんだろうなぁ。
「ねえ、今日見たわよ」
椿がにやにやと口角を上げた。そのにやにや顔さえも可愛いのだから、嫌な気がしない。でも、何を見たのかまったく分からない。
「何を見たの?」
「何をって……、今日バス停で男の人に連絡先聞かれてなかった?」
片眉を下げて聞いてくる椿を見ながら、言われたことを頭の中で反芻する。
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