友達だから

6/14
前へ
/430ページ
次へ
自分の考え事は後だ。首を振り、携帯の画面に向き直った。 ……とりあえず返事を……しよう。 『お久しぶりです。彰弥くんは大丈夫ですか? 早く元気になることを願います』 入力し終わった後、改めて自分の文を見ると……何とも他人事の文になってしまった。メールを受け取ってから何十分も悩んだのに、出来上がったのはあまりにも業務的だ。 でも別れたのに、しつこく聞くのもおかしすぎるし……本当に願うことくらいしか私には出来ないよね。 ……そのまま送信を押した。 何度も打っては消した。消しては打った。でも彰弥くんと何かあったのか、という質問にはどうしても答えることが出来なかった。何度打ち直しても、改めて文にすると自分の胸が痛くなって仕方なかった。 これがよくドラマで見る未練がましい女なのかな……。未練がましいって、私が彰弥くんに持ちかけた話なのに……図々しいよね。 ポスンッと送信し終わった携帯を自分の横に置くと、丁度コンコンとドアをノックされて返事をする前に開けられた。 「何やってるの?」 ノックをしてすぐに開けるのは椿以外しかいない。そう思いながらもドアの方を見ると、やはり椿だった。 「ノックした後、返事を聞いてから開けてよ」 そう不満を漏らすと、「ごめんごめん。義貴くんにもやってるから、つい」とヘヘッと笑う。 いや、ヘヘッじゃなくてさ。なんて言い返したかったけど、それを言う気力もなく、流すことにした。でも義貴先輩って、やっぱり優しいんだなぁ。椿のこと本当に好きだから、ああいう風に寛大になれるんだろうなぁ。 「ねえ、今日見たわよ」 椿がにやにやと口角を上げた。そのにやにや顔さえも可愛いのだから、嫌な気がしない。でも、何を見たのかまったく分からない。 「何を見たの?」 「何をって……、今日バス停で男の人に連絡先聞かれてなかった?」 片眉を下げて聞いてくる椿を見ながら、言われたことを頭の中で反芻する。  
/430ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2795人が本棚に入れています
本棚に追加